スーパーの鮮魚コーナーに並ぶマグロなどの刺身のトレーに、赤い液体が染み出しているのを見たことがないでしょうか。あの液体はいったいなんなんだろう?血?実はあの謎の液体「ドリップ」にはたくさんの旨味が含まれています。おいしく魚を解凍するにはこのドリップの流出を抑えることが重要です。今回はそんなドリップの謎に迫るとともに、適切な魚の解凍方法を解説していきます。
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魚を美味しく解凍するには「ドリップ」を知ろう
スーパーのマグロの刺身などに染み出ているあの液体。赤いからといって血液ではありません。その正体は『ドリップ』と呼ばれる細胞中に含まれる組織液なのです。冷凍や解凍の際に、細胞を包む細胞膜や細胞壁が破壊され、細胞外に染み出た組織液がトレーに溢れてきます。
赤身魚の場合は、筋肉を形成する細胞中に赤い色素を持つミオグロビンというタンパク質が多く含まれています。マグロの場合は染み出てきたドリップもこのミオグロビンにより赤くなるのです。
ドリップは旨味そのもの
タンパク質は様々なアミノ酸で構成されており、アミノ酸は旨味成分として広く知られています。ドリップが染み出てくることは、水分と共に旨味成分も抜けてしまうことを意味しています。魚だけでなくカニなどの甲殻類や肉なども、このドリップの流出を抑えることが解凍時には重要です。
なぜドリップは出るのか
では、どうしてドリップが出てくるのでしょうか。スーパーで並ぶ多くの魚は、水揚げから一度冷凍されていることがほとんどです。この時、水を凍らせると氷が膨張するのと同様に、魚の身に含まれる水分(組織液など)も膨張しています。膨張することにより細胞は傷ついたり、細胞同士で押し潰しあってしまいます。これが解凍されると、凍っていた水分(組織液など)は液体に戻り、ドリップとしてトレーに溢れ出てくるのです。
一度流出してしまったドリップは菌も繁殖しやすく、身の水っぽさや臭みの原因になってしまいます。スーパーで魚を選ぶ際も、ドリップが出ていないものを選ぶようにしましょう。すでに旨味が抜けてしまっているものを選ぶ必要はありません。
魚のドリップの量を減らすには
冷凍と解凍の工程を工夫することにより、流出するドリップの量を格段に減らすことが可能です。冷凍すると、細胞の中ではまず最初に氷の核が形成され、そこから時間をかけて氷の結晶が生成されます。
この結晶を生成する段階で時間がかかってしまうと、結晶はドンドン大きく成長してしまい、膨張により細胞膜などを破壊してしまいます。そして氷の膨張に関しては、温度がとても重要です。
冷凍時の注意点
氷の結晶には成長しにくい温度が存在し、その温度は−40℃付近、反対に氷の結晶がもっとも大きく成長するのは−5~−1℃と言われています。この温度帯にとどまる時間が長いほど、氷の結晶は大きくなってしまいます。一般家庭の冷凍庫の温度はだいたい−18℃以下に設定されていますが、冷凍庫内の使用状況などによってはそこまで温度が下がらなかったり、冷凍に時間がかかってしまいます。
最近の冷凍庫には急速冷凍モードが備わっていることが多く、魚に限らず食材を冷凍する際はぜひご活用ください。そんな最新機能が冷蔵庫に備わっていない場合は、保冷剤と一緒に冷凍するといいでしょう。温度を一律に下げやすくなるのでおススメです。また魚へのダメージを少なくするために、冷凍する前にしっかりと水分を拭いて、ジップロックなどに入れて空気に触れないように保存しましょう。
解凍時の注意点
冷凍時と同様に−5~−1℃に長くとどまらないことが肝心です。食品を解凍するときは時間はかかりますが、1~5℃の低温でゆっくり解凍してください。急速に解凍してしまうと、温度変化によって細胞膜などへのダメージが大きくなり、ドリップが出やすくなってしまいます。
反対に5~25℃での自然解凍は衛生的に非常に良くないので、絶対に避けましょう。細菌は5~60℃ぐらいの間で最も繁殖すると言われています。自然解凍の場合、外側から徐々に溶けていき、中心部の解凍が始まる頃には、外側は細菌の繁殖しやすい温度にさらされることになります。解凍の際は手間かもしれませんが、正しい方法で行うようにしましょう。