カジュアルなスーツの着こなしが一般的になり、スニーカーを合わせることも増えた。しかし、冠婚葬祭などのフォーマルな場では、革靴を合わせることが多いだろう。「窮屈な革靴をスニーカーのような履き心地に」という発想で生まれたのが、『かかとが踏める本革ビジネスシューズ』だ。販売元であるオアシスライフスタイルグループ(東京都)代表取締役の関谷有三氏に、同社の製品や開発秘話について聞いた。
革靴のタブーである「かかとを踏める革靴」は、革靴嫌いの発想から生まれた

「かかとを踏める革靴」は、どんな発想から生まれたのだろうか。オアシスライフスタイルグループ代表取締役の関谷有三氏は語る。
「僕自身、革靴が嫌いだった。普段はスーツにスニーカーを合わせているが、商談や冠婚葬祭などフォーマルな場では、どうしても革靴を履かなくてはならない。それなら、自分でも履きたくなるスニーカーのように快適な革靴を作れないかと考えた」
なぜ、「かかとを踏める」ようにしたのか。
「男性は長距離移動中に革靴を履いていると、窮屈に感じて自席で靴を脱ぐ人が多い。しかし、かかとを踏むと革靴がつぶれてしまうので、足の置き場がなくなる。しかも、手洗いに行く度に靴を履く必要がある。それならば、かかとが踏めるようにすればいいと思った」
アパレルビジネスは経験していたものの、靴を作ったことのなかった関谷氏は、スニーカーのような履き心地の革靴を作っていたアシックス商事にパートナーとして声をかける。
しかし、靴メーカーにとって革靴のかかとを踏むのはご法度であり、「かかとを踏めるようにすると足が抜けてしまうので、靴としての機能が損なわれる」と最初は断られたのだという。
「かかとを踏んでも足が抜けず、革靴の機能として遜色ないように検討を重ねた。その結果、かかとの裏側に不織布を使用して摩擦が生じるようにした。踏んだときに曲がる角度にもこだわった」
何度も試作を重ね、実際に履いてフィードバックを繰り返していく。試行錯誤は1年半続いた。
商品の完成までこぎつけると、一般流通の前にユーザーのニーズを知りたいと考え、アーリーアダプターの多いクラウドファンディングサイトのみでリリースした。結果、ビジネスシューズとしては異例の売上である1,300万円以上を記録。およそ1000足を販売した。
「実は、靴はクラウドファンディングで売りにくい商材のひとつ。試着や返品ができないからだ。その中で好調だったため、手ごたえを感じた」
試着すると、「かかとを踏めるだけで革靴はこれほど快適になるのか」と皆一様に驚くのだという。
靴の製造や販売の経験がない同社が、ユーザーから高い評価を得るモノづくりを実現できたのは、「自分たちが納得できる商品になるまで売らないというこだわりがあったから」と関谷氏は話す。
「開発に1年半かかったが、おそらく靴メーカーはここまで時間をかけられない。当社は飲食業やマーケティングなどの別の事業も行っているため、アパレル事業だけで利益をあげなくてもいい。ある意味、無計画にクオリティだけを純粋に追求したことが、商品づくりの成功につながった」
実は、同社のこうしたモノづくりは革靴が初めてではない。WWSという「スーツに見える作業着」を開発したことが始まりだ。
「スーツに見える作業着」は1800社以上で採用

365日洗濯機で洗えて、着心地がよく丈夫なスーツ「WWS(WORK WEAR SUIT)」を開発したオアシスライフスタイルグループだが、もともとは水道工事会社だったというから驚きだ。
アパレル事業参入のきっかけは、関谷氏が会社を継ぐタイミングで「新たな自社の作業服を作ろう」と考えたことだった。
「水道会社を営んでいた父は、いつも作業着を着ていた。作業着は働く誇りであり、作業もしやすく快適なもの。しかし、家族でレストランに行くときにも作業着を着ていて、幼心に恥ずかしかった。作業服はTPOを選ぶという認識があった。そこで、作業着の快適さとスーツのフォーマルさを兼ね備えた自社のユニフォームを作れないかと思った」
難しかったのは生地選びだ。丈夫な生地は世の中にたくさんあるが、丈夫であればあるほど、ゴワゴワして着心地はよくない。スーツに仕立てると、スタイリッシュさに欠けてしまう。
「丈夫でかつ柔らかいスーツの仕立てにも適した生地はないか。日本中のさまざまな生地メーカーを探したが、納得できるものには出会えなかった。そこで、オリジナルで開発することに決め、2年かけて納得のいく生地を作り上げた」
もともと自社のユニフォームとして開発したが、「水道屋が作業着として作ったスーツ」に思いのほか反響があり、「うちの会社のユニフォームも作ってほしい」という声が多く集まった。そこで、同社はアパレル部門を立ち上げたのだ。
「現在では約1800社のユニフォームに採用されている。主に、軽作業や配送、車のメンテナンス、教育現場など、身体を動かす仕事で接客を伴う方々に利用されている」