フランスはなぜ攻めあぐねたのか
基本布陣[4-2-3-1]のレ・ブルーは当初、テオ・エルナンデスとジュール・クンデの両サイドバックのどちらかを敵陣に上げ、バックラインの残り3人でビルドアップを試みたものの、アルゼンチン代表の3トップとの数的同数(3対3)を打ち破れず。途中から4バックのままでパスを回そうとしたが、アドリアン・ラビオとチュアメニの2ボランチのいずれかがセンターバックとサイドバックの間へ降り、ビルドアップの中継地点を担うなどのサポートが遅く、特に試合序盤はアルゼンチン代表のプレスを掻い潜れなかった。
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ラビオとチュアメニによるサポート不足を補うべく、アントワーヌ・グリーズマンが右のハーフスペース(ピッチを縦に5分割した際の、左右の内側のレーン)を上下動したものの、マック・アリスターが同選手を捕捉し続けたことで、フランス代表の遅攻は手詰まりに。レ・ブルーの攻撃の起点をことごとく封じたアルゼンチン代表が、試合の主導権を握った。
前半17分にはタッチライン際で孤立したT・エルナンデスにロドリゴ・デ・パウルがプレスをかけ、敵陣でボール奪取。これがアルビセレステスのショートカウンターに直結し、ペナルティエリア内でディ・マリアがシュートを放っている。この場面を機にアルゼンチン代表が攻勢を強めた。
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深刻だったレ・ブルーのコンディション不良
[4-1-2-3]の布陣で臨んだアルゼンチン代表は、オタメンディとクリスティアン・ロメロの2センターバックを起点にパスを回す。これに対しフランス代表はグリーズマン、オリビエ・ジルー、ムバッペの3人で中央のレーンとハーフスペースを塞ぎ、アルゼンチン代表のパスワークをサイドに誘導しようとした。
準決勝から中4日でこの試合に臨んだアルゼンチン代表に対し、中3日のフランス代表の選手たちの足取りは重く、攻守ともに停滞。キックオフ直後は鋭かったプレッシングの出足も、時間の経過とともに鈍くなった。
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フランス代表のディディエ・デシャン監督にとって、特にラビオとチュアメニの運動量が不足気味で、球際でも強さを発揮できなかったことは誤算だっただろう。相手最終ラインからの縦パスを迎撃するはずだったこの2人の不調により、レ・ブルーはアルゼンチン代表の2センターバックから中盤の底エンソ・フェルナンデスへの配球を許してしまった。
象徴的だったのが、ディ・マリアのPK奪取の直前。ここでもフランス代表のアタッカー陣と2ボランチが間延びし、フェルナンデスがジルーの背後でフリーに。アルビセレステスの背番号24がデ・パウルからのパスを受け、前線に縦パスを送っている。準決勝まで機能していたレ・ブルーの中央封鎖は、コンディション不良により決勝で破綻した。自慢の堅守の崩壊が、W杯連覇を逃した最大の原因だろう。
守備を立て直せなかった前半の出来が悔やまれるものの、後半にアタッカー陣を並べ、サイドからのシンプルなクロスや中盤を省略した攻撃で試合を振り出しに戻すなど、レ・ブルーが前回大会覇者としての意地を見せたのは確か。誇り高き戦士たちによる、敗者はいないに等しい決勝戦だった。