西バルカン諸国が現在、欧州統合を加速させてきていることはこのコラム欄で紹介したばかりだ。ブリュッセルで開催された欧州連合(EU)首脳会談は15日、ボスニア・ヘルツェゴビナの加盟候補国入りを正式に決定したことで、西バルカン諸国5カ国が加盟候補国のステイタスを得た。

▲習近平国家主席はセルビアのブチッチ大統領と会談(2022年2月5日、北京、人民大会堂で、中国国際放送局日本語版オンラインから)

その結果、西バルカン諸国は完全にEUの勢力圏入りかというと、そうとは言えない。バルカン諸国は旧ユーゴスラビア連邦の崩壊後、6共和国(2自治州)から構成された共和国がいずれも独立国家となったが、冷戦時代にソ連共産圏の影響下にあったこともあって、ロシアとはその後も伝統的な友好関係を維持してきた国が多い。特に、バルカンの盟主セルビアはロシアと関係が深く、セルビア正教会はロシア正教会と依然深い関係を持っている数少ない正教会だ。

ただ、ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させて以来、バルカンでもロシアに対する批判の声が高まってきている。一方、バルカンでロシアの政治的影響が揺れ出したのとは対照的に、中国の影響が広がってきている。ここでもセルビアはバルカン諸国の中でも目立っている。

中国企業がセルビアに進出、ハンガリー・セルビア鉄道、ノビサド・ルマ高速道路の建設をはじめ、2016年には中国鉄鋼大手の河北鉄鋼集団が、セルビア・スメデレボの鉄鋼プラントを買収した。2018年8月末にはベオグラード南東部にある欧州最大の銅生産地ボルの「RTBボル」銅鉱山会社の株63%を12億6000万ドルで中国資源大手の紫金鉱業が落札した。中国人が直接経営するセルビア会社としては2社目だ。

独仏共同出資のテレビ局「アルテ」は先日、セルビアで活動する中国企業やそのコミュニティの様子を報道していた。それによると、4年前に中国側に吸収されたボル銅鉱山の町に住む市民は「工場からアパート、輸送道路などがあっという間に建設されていった。もちろん住民との話し合いはなかったから、われわれは全く知らない。ただ、工場からの排気煙などで市の空気が汚染されてきた」という。

「アルテ」によると、毎朝、労働者が工場にくるが、「彼らは輸入された労働者」で全て中国人だ。彼らは朝から夕方まで働き、近くの簡易なアパートに戻っていく。「アルテ」の記者が英語で声をかけても誰一人として英語を話す労働者はいなかった。人懐こい笑顔を見せながら、アパートに戻っていく労働者の姿だけが印象的だ。