「海の中で共生する生き物」の一例としてしばしば挙げられるウツボとイセエビ。魚とエビの種を越えた助け合いとも言われますが、しかし実際はそんなに単純なわけではないようです。
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ウツボの被害が拡大中
イセエビ漁で有名な三重県伊勢地方でいま、とある「イセエビの天敵」が大きな被害をもたらし問題となっています。
その天敵とはウツボ。海のギャングともいわれるウナギ目の魚で、動物性の餌なら何でも食べてしまう獰猛な魚です。彼らは刺し網にかかったイセエビを食い荒らし、その鋭い歯で網もボロボロにしてしまうといいます。
伊勢周辺では、数年来続く黒潮の大蛇行の影響を受けて海水温が上昇しており、暖水を好むウツボが増えているとみられています。漁師たちはウツボの駆除を始めているものの、数も多く焼け石に水状態といいます。
ウツボとイセエビは共生する?
さて、魚に興味のある皆さんの中で、このニュースを聞いて違和感を覚える人はきっと少なくないのではと思います。というのも、きっと少なくない人が「ウツボとイセエビは共生するもの」と思っているはずだからです。
ネットで検索しても「ウツボとイセエビは共生する」という言説が数多くみられます。またテレビ番組でもたびたび取り上げられているのを見かけます。
イセエビの天敵のひとつに「タコ」がいるのですが、タコはウツボの大好物でもあります。ウツボはイセエビと同じ場所で暮らすことで、イセエビを捕食しに来たタコを食べることができ、イセエビも安全に暮らせるため、彼らが同じ場所で共生している、というのがこの説の概要です。
自然界はそんなに都合よくはない
しかし実際はというと、残念ながら(?)そんなに上手い話は自然界にはないようです。イセエビとウツボは同じ場所に生息していますが、それはどちらも岩陰を好む性質を持つため。
ウツボは確かにタコが好物で、イセエビとともに暮らすことでこれを狙いに来たタコを捕まえられるかもしれません。しかしそれは言ってみればイセエビがウツボにとって「タコを捕まえるための餌」の役割もあるという程度に過ぎず、残念ながらイセエビ自体がウツボの餌になってしまうことも少なくありません。ウツボはごく普通にイセエビを捕食しており、釣りあげたウツボの消化管から殻が出てくることはよくあることです。
ただし、ウツボがイセエビを捕食できるのはイセエビが小さな時だけで、大きくなると殻も固く餌に向かないため、捕食対象からは外れるようです。ウツボにとっては「イセエビも食べるけど、タコのほうが食べやすいから好き」「大きなイセエビは食べられないからタコの餌になればいいな」程度の話でしかないと思われます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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