ホルモンに影響を与えない新しい避妊薬が誕生するかもしれません。
スウェーデン王立工科大学(KTH)に所属するトーマス・クルージャー氏ら研究チームが、ロブスターやカニ由来の天然成分「キトサン」を使った避妊ジェルを開発したのです。
ヒツジを用いた実験では、放出された精子の98%が子宮頸部に到達するのを阻止できました。
研究の詳細は、2022年11月30日付の学術誌『Science Translational Medicine』に掲載されました。
経口避妊薬ピルの副作用
1回の射精に含まれる精子の数は約3億個と言われています。
望まぬ妊娠を防ぐためには、男性と女性が避妊具や避妊薬を用いる必要があります。
男性側ではコンドーム、女性側では経口避妊薬ピルなどが一般的です。
そしてコンドームの避妊率は約85%、ピルの避妊率は約99%などと言われています。
(※コンドームの避妊率が低いのは正しく使えてない場合が多いためと考えられている)

ピルは主に2種類の女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)で構成されています。
そして、このホルモンが頭痛や吐き気、下痢、しびれなどの副作用を引き起こす場合があるようです。
女性ホルモンに影響を与える薬であるため、時にトラブルの原因になることがあるのです。
では、ホルモンに影響を与えない避妊薬はあるのでしょうか?
クルージャー氏ら研究チームは、非ホルモンタイプの新しい避妊薬を開発することに成功しました。
粘膜を強化して精子を通過させない「避妊ジェル」を開発

新しい避妊薬の主成分はロブスターやエビ、カニの外骨格に含まれる「キトサン」です。
キトサンは動物性の不溶性食物繊維の1つであり、ダイエットサプリや特定保健用食品(トクホ)、医療分野における縫合糸などに使用されてきた安全な天然成分です。
研究チームは、このキトサンと粘液に潤滑特性を与えるタンパク質「ムチン」の分子を組み合わせることで、精子をブロックする「避妊ジェル」を開発しました。
この避妊ジェルを塗布すると、子宮頚管(子宮から膣につながる筒状の部分)の粘膜バリアが一時的に強化され、精子が通過するのを阻止してくれるというのです。

しかもホルモンに影響を与えないので、女性が副作用を被ることもありません。
そして8頭のヒツジを用いた人工授精テストの結果、研究チームは「新しい避妊ジェルが子宮に到達する精子の数を平均98%減少させた」と報告しています。
ただし、この数字は「精子の数を減らす割合」であり、既存の避妊薬が示す「避妊できる割合」とは異なる点に注意しなければいけません。
さらに人間の子宮頚管粘液と精子を使用した研究室での実験でも、同様の効果を確認できました。
しかも避妊ジェルを塗布すると即座に粘液が強化されはじめ、1分後には精子が通過する数を減らし、5分後には完全な遮断が可能になりました。

研究チームは、効果時間について次のように述べています。
「新しい避妊薬は、性交の数秒前から数時間前の間で使用できるはずです。
効果は何時間も続く可能性がありますが、粘液が入れ替わるにつれて効果も減少していくでしょう」
精子のほとんどを遮断できるため、コンドームとの併用でほぼ確実な避妊が可能になるかもしれません。
天然由来でホルモンにも影響を与えない避妊薬なため、製品化が待ち遠しい人も多いでしょう。
現在クルージャー氏は新たな会社「Cirqle Biomedical」を設立し、避妊ジェルの臨床試験を目指して研究を続けています。
参考文献
Non-hormonal gel proves effective at helping mucus block sperm
Birth control made with compounds from LOBSTERS blocks 98 PERCENT of the nearly 100 million sperm trying to penetrate the cervix
元論文
Topical reinforcement of the cervical mucus barrier to sperm