ところで、フォン・デア・ライエン委員長の「新規加盟プロセスがここにきて勢いを増してきた」とは具体的に何を意味するのか。ズバリ、ロシアが2月24日、ウクライナに軍事侵攻したことだ。同委員長にはロシアのウクライナ侵攻を前に、西バルカンの欧州統合を急ぐ必要が出てきた、という戦略的な判断が働いていることは間違いない。同時に、西バルカンでの中国の経済的影響力の拡大が大きな懸念材料として浮かび上がっていることだ。

フォン・デア・ライエン委員長は、「ウクライナ戦争は独裁政治が勝つのか、民主主義と法の支配が勝つのかの問題を提示している。どちらの側にいるかを決定する必要がある。後者はEU加盟だ」と述べ、西バルカン諸国のリーダーに欧州統合への意欲を促している。

EU加盟候補国は現在、8カ国だ。トルコ(2005年以来、EUとの加盟交渉は現在凍結中)、モンテネグロ(2012年)、セルビア(2014年)、北マケドニアとアルバニア(2022年)の5カ国にウクライナとモルドバ(2022年6月)、そして今回のボスニアを入れて8カ国だ。2008年にセルビアから独立宣言したコソボはジョージアと共に「潜在的な候補国」の立場だ。

ただ、加盟候補国にとってEUへの道のりは決して平坦ではない。ボスニアの場合、デイトン和平協定は3民族間の紛争を停止させたが、民族間の和解の道は依然、見えてこない。ただ、10月2日に実施されたボスニアの国政選挙で親欧州派の候補者が民族主義派の候補者を破った。コソボの場合、“バルカンの盟主”セルビアから2008年独立したが、コソボ北部に住むセルビア系住民(約5%)とコソボの多数派アルバニア系住民(約90%)との間で小競り合いが絶えない。ベオグラードは今なお、コソボを独立国として認知していない。コソボを主権国家と承認した国は100カ国を超えた程度だ。EU加盟国の中でもスペインばコソボの独立を認めていない。

西バルカン諸国にとってハードルの一つは、EUの対ロシア制裁だ。旧ユーゴスラビア連邦の盟主セルビアは歴史的に親ロシア派だ。セルビア正教会はロシア正教会と密接な関係を有している。ブリュッセル(EU本部)はまた、西バルカン諸国に対し、EUに渡航する第3国国民のビザの円滑化を終了するよう要求している。西バルカン・ルートを介した不法な移民の入国問題が深刻だ。

セルビアの首都ベオグラードで11月16日、オーストリア、ハンガリー、セルビア3カ国の首脳会談が開催された。目的は、不法移民との戦いで強力な軸を形成し、国境保護のための措置を共同で講じることだった。10月の欧州国境沿岸警備機関(Frontex)によると、年初以来、10万人を超える人々がEUに不法入国しており、その数は2016年以降で最も多い。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。