(IMF「国際金融安定性報告書」)

欧米の主要中央銀行は今年に入り、金融政策を緩和から引き締めへとこぞって転じている。その政策転換は、先進国のみならず、新興国にも悪影響を及ぼしつつある

国際通貨基金(IMF)が年2回発表する国際金融安定性報告書(GFSR)の最新号を見ると、2022年に入り、新興国向け投資がこれまでの資本流入から資本流出に転じている(図表)。背景にあるのが、エネルギー価格上昇に端を発した物価高騰と、それに伴う欧米中銀の政策転換を受けた新興国の経済状況の悪化である。先進国の投資家が新興国リスクを回避するため、資本を引き揚げているのである

経済危機に瀕する新興国も増加している。その一例がスリランカだ。同国は20年以降、新型コロナウイルスの影響を受け、観光収入が大きく落ち込み、海外で働くスリランカ人の送金も減った。そのため、外貨準備が急減し、輸入や債務の返済に必要な外貨を十分確保できない状況となった。22年初めからは燃料不足による長時間の停電や激しいインフレが発生し国民生活を圧迫したため、デモや暴動が頻発し政権が崩壊。22年5月にドル建て債務の支払いを行えず、同国史上初めてデフォルトに陥った

こうした事態に陥るリスクがある新興国は、スリランカ以外にも数多く存在する。パキスタン、バングラデシュ、エジプト、ケニアなどは深刻な外貨不足に陥り、IMFに支援を要請し合意している。ほかにナイジェリアやラオスなども、外貨不足に陥っていると伝えられる

新興国が外貨不足に陥った原因としては、対外借入れが増加したことも大きい。物価高騰前の日米欧の中銀は、コロナ禍もあり、金融緩和政策を採っていたため、資金調達コストが低かった。新興国は積極的に対外借入れを増やし経済開発を積極的に行ったことで、新興国への資本流入が続いた

こうした状況を受けて、高水準となった新興国の債務残高について、IMFなどの国際機関は早い時点から懸念を示していた。この懸念は、欧米中銀の利上げで現実化した。利上げで資金調達コストは増加し、インフレの高止まりやコロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻の影響も重なり、新興国の経済不振につながった

新興国が対外借入れへの依存を強めた結果、「債務のわな」にはまりやすくなっている問題も露見した。前述のスリランカは、17年に南部のハンバントタ港の建設費を返済できる見込みがなくなり、中国とスリランカの合弁企業に対して、99年間にわたって港の運営権をリースせざるを得なくなった。新興国においては、多国間協調や国際支援を通じ債務リスクを軽減すべき時期が到来している。

資本流出が表す新興国の厳しい経済状況
(画像=『きんざいOnline』より引用)

文・三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員 / 廉 了
提供元・きんざいOnline

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