もちろん、特定の思想に凝り固まり、「時間」が止まり、前に進まなくなった人々は「旧ドイツ帝国公民」だけではない。イスラム圏の統合を夢み、中世時代のイスラム法に基づいた「カリフ国家」の復興を叫び、中東各地で蛮行を繰り返したイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)も同じだ。ただ、ISとは違い、「旧ドイツ帝国公民」には宗教的な要因は希薄だ。
「旧ドイツ帝国公民」の国家転覆計画は昨年11月末ごろから始まった(ブッシュマン法相)という。捜査の出発点は、カール・ラウターバッハ保険相の誘拐を計画していたとして4月に逮捕された「ユナイテッド・パトリオット」グループと、「旧ドイツ帝国公民」のメンバーとのつながりが浮かび上がってきたからだ。
ドイツのメディア情報によると、「国家転覆計画」のトップは、貴族の称号を有するハインリッヒ13世(71)と息子(ロイス王子)だ。ハインリッヒ13世はグループの中央機関の議長を務め、ロシア連邦の代表者と連絡を取ろうとしたという。ちなみに、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「ドイツの内政」と述べ、今回の件では何も語っていない。
ハインリッヒ13世親子やヴィンケマン元AfD議員のほか、調査対象となっている人物には、ドイツ連邦国防軍特殊部隊司令部(KSK)の兵士1人とドイツ連邦国防軍の予備兵数人が含まれている。軍事防諜局(MAD)のスポークスマンによると、現役の兵士はKSKのスタッフに配備されているという。また、グラーフ・ツェッペリンの兵舎にある自宅と事務所が捜索された人物は下士官だ。
ドイツのような法治国家でクーデターが発生するという事態は想定外だが、連邦軍や裁判所に関与する人物が今回の国家転覆計画に参加していたことから、捜査側も慎重に調査を進めているところだ。
ちなみに、ショルツ連立政権は今月8日で発足して1年が過ぎた。ドイツで初の3党連立政権(社会民主党、緑の党、自由民主党)は発足直後からコロナ対策からウクライナ戦争、エネルギー危機と物価高騰など次々と難問に直面してきた。そこに極右過激派の「国家転覆計画」が表面化したわけだ。3党の結束と連帯が改めて求められる。

襲撃の目標とされたドイツ国会議事堂 bluejayphoto/iStock
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。