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iPS細胞から目のパーツを作る「再生医療」に期待
ビタミンAはドミノの最初の1枚を押していた
iPS細胞から目のパーツを作る「再生医療」に期待

今回の研究により、ビタミンA(酢酸レチノイン)を与えることで、脳オルガノイドと視神経で接続された眼球を加えられることが示されました。
また形成された目に光をあてると、脳オルガノイドで電位変化が起こり、何らかの情報処理がはじまったことも判明します。
さらに追加の観察により、目の獲得は脳オルガノイドにも影響を与えていたことが示されます。
目を獲得した脳オルガノイドで働いている遺伝子を調べたところ、光の知覚にかかわる遺伝子が活性化していたことも発見されました。
感覚器と接続されていない脳オルガノイドは、全く刺激のない世界に存在しています。
しかし目を獲得したことで、外界との接点が発生し、個々のニューロンの活動にも大きな影響を与えていたのです。
また今回の研究は、目に疾患を抱える人々にとって大きな希望になりえます。
iPS細胞から目を作る方法の一端が判明したことで、患者本人の遺伝子を持つiPS細胞から、新品の網膜や水晶体(レンズ)を作れる可能性があります。
さらに脳オルガノイドと神経接続された目は、新薬の開発や病気の仕組み解明など、疑似的な人体実験の材料として用いることが可能です。
研究者たちは今後も研究を続け、より完璧な脳オルガノイドと目が作られるように調整を続けていくとのこと。
もしかしたら将来の眼科には従来の部門に加えて、現在の目を新しい眼球と交換する再生部門が備わっているかもしれませんね。
ビタミンAはドミノの最初の1枚を押していた

前述したように、進化的にみれば目は脳の領域の1つです。
そして胎児期の脳を模倣する脳オルガノイドにはもともと、目になるための専用の細胞が準備されています。
ここで重要なのは、目になる準備をしていた細胞たち(間葉)は、準備状態に留まるために、ある種の信号(パラクリン)を出し合っていたということです。
細胞の準備状態(未分化・未熟)というのは、エネルギーを必要としない単なる待機ではなく、お互いに信号を送り合って維持する、コストを要する状態の場合もあったのです。
そしてビタミンAは、この準備状態を維持するための信号を、遮断する効果があると考えられています。
準備状態が解かれると細胞たちは、外部からの助けなしに、自律的に目を形成しはじめます。
目という非常に複雑な器官が、ビタミンAのような単一の成分をキッカケにして、自律的に構成されていくのは生命の神秘と言えるでしょう。
参考文献
Scientists Grew Stem Cell ‘Mini Brains’. Then, The Brains Sort-of Developed Eyes
元論文
Human brain organoids assemble functionally integrated bilateral optic vesicles
提供元・ナゾロジー
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