若者のための「居場所」をつくりつづける家入氏は自身も子育て中の父親である。年長者として、起業の先輩として、父親として今思うこととは。(聞き手・構成=濱田 優/写真=森口新太郎)
若い子も社員も頭ごなしに否定はしない
――最近立ち上げられた「やさしいかくめいラボ」をはじめ多くの若者と交流されています。読者の中には「世代が違う若者とは何を話していいか分からない」「つい叱りたくなる」という人もいると思いますが、そういうことはないですか?
ないですねぇ。基本的にはないです。ただ叱ることもあるし、「そういうことやっていると、よくないよ」と注意することはもちろんありますが、それは年齢関係なく、CAMPFIREの社員に対しても若い子たちにも、自分の子どもにも同じです。ただ頭ごなしに否定しないことは意識しています。萎縮しちゃうと新しいものって生まれてこないし、いろんな考え方があっていいと思う。愛の形にはいろいろあって、首根っこをつかまえて厳しくしごくのが愛だという人もいるだろうけど、僕はそうではないという気がするだけの話です。
例えば、若い子が何かやらかしたときも、そもそもなんでそれをやろうと思ったかというところから聞く。それぞれの正義、それをやろうと思った理由や意図はある。ただ単に結果的にはよくなかったねというだけの話。結果だけを見て叩いても結局あまり意味がない。それをなぜやろうと思ったのかから聞くと、納得感があったりする。「やり方はまずかったけど、その考え方自体は悪くなかったよね」ということは往々にしてある。
――ただ会社としては給与も払っているので、社長としては社員に払っている分成果を出してもらわないといけないですよね。一方、何かやりたくて集まっている若い子たちには給与を払っているわけでもない。そこに区別はないのでしょうか。
基本的に人の行動の源泉ってメリット・デメリットだと思うんですよ。会社で働くことにしたって、メリットが給与という子もいれば、給与じゃないところ、気持ちとか学びがあるとかやりがいで働く子もいる。
それと同様で、無料の「やさしいかくめいラボ」に集まっている子たちも、ここにいることで何かしら学びがあると思って集まっているはずです。逆に僕もそれを無償でやることで、自分にとってメリットがあるからやっているわけです。
もちろん若い子たちのためにやっていますが、その先に自分にとってのメリットもあるからやっているはずなんです。それがお金なのか、起業家が生まれたときに最初に投資できるチャンスなのか、「俺がこんな場所をつくった」と言いたいのか分からないけど、長期的に何かしらの利益を求めているはず。だから純粋に「いいことやってますね」と言われるとすごく違和感を覚えるんですけど、それは別に「いいことをしたいから」でやってないよという感じだから。短期的に損得で考える人って長期的には損をすると思っているんですよ。
もちろんやった分だけの対価を得るとか、フリーランスの人が仕事した分の対価をもらうとかって大事なんですけど、一方で無償で自分のスキルを提供しておくことで、長期的に大きなものを得られるという観点ってあると思います。
起業は手段。ただ目的であっても構わないと思うようになった
――若い子たちに活躍の場を与えてきて、いま振り返ってみて印象深い子、エピソードはありますか。
めちゃくちゃあります。一つ挙げるならBASEの鶴岡(裕太)くん。彼は大学を休学していて「何していいか分からない」みたいな感じでしたが、いろんなプロジェクトをやって、BASEを立ち上げて起業して代表になって。肩書が人を変えた部分もあると思う。よく「起業は手段であって目的ではない」と言われますけど、僕は別に目的でもいいと思う。起業して会社が何やるかは未定だけど、代表取締役という名刺を持った瞬間に変わっていくタイプの子も一定数いるんですよね。
僕自身も、「起業が目的化しているのはよくないよね」と思っていたんですけど、実際にそういった中にも変わっていく子が出てきたので、別に目的でもいいのかなと思うようになりましたね。もちろん起業しても変わらない子もたくさんいますが……。
大人が子供にかける無意識の期待や言葉が「呪い」になる
――ただ自分の子どもとなると期待もかけちゃうし、居場所を与えて黙って見ておくことができない人もいると思うんですけど。
僕はあくまで自分の体験からしか話せないですが、中2で学校に行かなくなって、最初はそれこそ親も泣きわめく僕を無理やり校門まで連れて行ったりしていたんですよね。それでも逃げていたので最終的に諦めてくれた。受け入れたというと聞こえがいいですけど、諦めたと思うんです。その諦めが僕にとってはすごく救いになったんですよ。あれを繰り返されていたら心は折れていたと思うし病んでいたと思う。
いまだに中高生で自殺しちゃう子の話を聴くとすごい辛いです。僕もああなっていた可能性は全然あったと思っていて。ひきこもりになって親が何も言わなくなった後も、親はずっと「こういう人の本があるよ」とか、そういうことだけ諦めずに提示してくれたんですよ。それでも僕は「いや、読まない」って感じだったんだけど(笑)。
あるとき急に、山田かまち(編注:1960-1977、17歳で没後、遺作の絵画や詩が発見された“夭折の天才”。『悩みはイバラのようにふりそそぐ:山田かまち詩画集』=筑摩書房=で広く知られた)さんっていう若くして亡くなった方の個展が福岡であったときに、母親に「行かない?」と誘われて、たまたま興味を持ったんですよ。それで母親と一緒に行って。生き急ぐように生き17歳で亡くなった彼の詩や絵を見て、同い年くらいだった自分を比べて、「自分は何をやっているんだろう」って思った。僕自身も絵を描くのが好きだったので、そこからもう一回絵を学びたいとなって、外に出るようになったんですよね。
大人のやるべきことって、「自分がこういう場をつくったからこうしてくれ」という期待したり見返りを求めたりするんじゃなくて、それが刺さるか刺さらないかも分からなくても、いろんな選択肢をただ提示し続けることだと思うんです。自分の子どもに対するスタンスも、よく言うとそういう感じ。悪く言うと放任かもしれないけど。
ただ自分の子どもにせよ誰の子どもにせよ、“呪い”をかけないことですよ。親は良くも悪くも期待したり、「こうなって欲しい」と自分が叶えられなかった夢をおしつけたりしちゃう。「お前はこういう性格だから、こういうのが向いているよ」という何気ない一言も含めて、子どもにとって“呪い”になるんですよ。逆に言うと“呪い”をかけずにいられないというか。どう育ててもかけちゃうものだと思うんですけど、過度にかけてしまうと、やっぱりそれがコンプレックスや生きづらさになってしまう。
頭ごなしに叱らない話と近いんですけど、頭ごなしに「こう生きなさい」「こうあるべき」「お前にはこれが向いているんだ」と決めつけないということは意識していますね。それがいいのかは分からないですけどね。ある意味放任だし、ときには厳しく口を出し、強制するのも大人の役割だろうし。そう考えると、僕はそこに関して何もできてないな……。
後編に続く(31日公開予定)
家入一真(いえいり・かずま)
1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業し、JASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIRE創業、代表取締役社長に就任。他にもBASE、partyfactory、XIMERAの創業、駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開、ベンチャーキャピタルNOW設立など。
構成・濱田 優/MONEY TIMES 編集部
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