(日本証券業協会「公社債店頭売買高」ほか)

欧米が金融政策を転換させるなか、日本は財政支出への依存と金融緩和を維持している。そうした中で、日本に対する外国人投資家の見方が変化し始めていることを示す現象が起こっている。

その一例が、外国人投資家による「日本国債売り」が過去最大規模に膨らんでいることである。日本証券業協会の統計では、2022年4~6月期の外国人投資家の長期国債の売り越し額は7.5兆円規模となった(図表1)。7~9月期は一服しているが、売り越し状態には変わりない。足元の外国人投資家による日本への投資状況が分かる財務省「対外及び対内証券売買契約等の状況」を見ても、22年10月以降も外国人投資家の日本の中長期国債の売りは続いている。外国人投資家の日本国債への投資スタンスは、明らかに転換している。

日本国債を売り始める外国人投資家
(画像=『きんざいOnline』より引用)

22年6月末時点で、短期債も含めた日本国債の外国人保有比率は13.6%に達した(図表2)。日本は、欧米諸国と比べても早くから財政に依存し、国債残高が対GDP比で約260%と先進国の中でも突出して高い水準に達している。また、金融緩和政策を早くから導入し、今も維持している。そのため、政府債務の多さに対する警戒感が内外で高まっていたが、外国人投資家は長年日本国債を購入し続け、一貫して保有を増やしてきた。背景には、円の調達コストが低く日本国債が保有しやすかったことや、海外の政治・経済事案を受けた「質への逃避」の動きの中で、日本国債が安全資産と見なされたことがある。

日本国債を売り始める外国人投資家
(画像=『きんざいOnline』より引用)

しかし、欧米の金融政策が緩和から引き締めに転換した中で、日本銀行は金融政策スタンスを変えず、10年物の長期金利が上限の0.25%を超えないように指し値オペを導入している。これによる無制限の国債買い入れで国債の市場機能が落ちたため、日銀の政策の限界が露呈したとの見方から、国債売りを仕掛ける海外勢が増えたものとみられる。

もちろん、外国人投資家の動向に日銀が金融政策を合わせる必要はないが、明らかに外国人投資家の日本国債への影響力が増しているだけに無視できる存在ではない。この外国人投資家の動きが国債市場を崩す引き金にならないよう、政策当局も気を配らねばならない状況にある。日銀の金融政策の転換に向けた圧力がさまざまな方面から高まる一方で、政策転換の副作用も日に日に大きくなっていることに留意する必要がある。

文・三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員 / 廉 了
提供元・きんざいOnline

【関連記事】
通貨主権を奪われず、競争に勝つためのCBDCの議論を進めよ
中国景気を加速させる3つのエンジン
オンライン診療の恒久化に向けて安全性と信頼性を向上させよ
個人消費の増加基調を映す乗用車登録台数
マーケットはまだ「経済の正常化」を織り込んでいない