中国では、「動態ゼロコロナ」戦略による幅広い行動制限が経済の足かせとなり、サプライチェーンの混乱を通じて、中国経済との連動性が高い国の景気の足まで引っ張る状況が続く。中国の4~6月期の実質GDP成長率は、上海市などでの都市封鎖の実施により前年比0.4%増と大きく下振れしたものの、7~9月期は都市封鎖の解除による経済活動の再開を受けて同3.9%増と底入れした様子もある。しかし、月次の経済指標は7月をピークに頭打ちの様相を呈し、10月は一段と下振れしている。中国の足元の景気は、再び減速の様相を強めている可能性がある。

中央銀行である中国人民銀行は、昨年末以降に段階的な利下げによる景気下支えに動いているほか、地方政府も過去最高額となる地方特別債(専項債)を発行し、資金調達を通じたインフラ投資の活発化を図っている。こうした動きを反映して、年明け以降の信用(クレジット)動向は底入れの動きを強めており(図表)、通常であれば景気の底入れが促されやすい環境にある。こうした状況にもかかわらず、足元の中国経済が減速感を強めている背景として、動態ゼロコロナ政策が影響していることは疑いようがない。

金融市場では、当局が動態ゼロコロナ戦略の転換に動くとの見方が強まっている。だが、10月に実施された共産党大会では動態ゼロコロナ戦略の貫徹が呼び掛けられたほか、その後の党最高指導部の会合でも同戦略への揺るぎない支持が求められるなど、強力な感染対策を維持する方針が共有された。足元の感染動向も急速に悪化しており、地方部の医療インフラの脆弱さなどを勘案すれば、早々に大幅な戦略転換が図られる可能性は低い。

党・政府は今年の経済成長率目標を「5.5%前後」としているが、9月までの累計ベースの成長率は3.0%にとどまっている。当研究所は、中国の今年の経済成長率を3.2%と見込んでおり、党・政府の目標にはほど遠い状況になるとみている。コロナ対策の表現ぶりが変更される可能性はあるものの、厳しい対策が一段と長期化する可能性もくすぶる。

中銀は景気下支えに向けて預金準備率の一段の引き下げを決定している。しかし、そもそも動態ゼロコロナ戦略が変わらなければ、中国経済を取り巻く状況が劇的に変化するとは見込みにくい。

中国経済が再び減速、今年の経済成長率は3.2%を見込む
(画像=『きんざいOnline』より引用)

文・第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト / 西濵 徹
提供元・きんざいOnline

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