
“島の未来を担っていく地元の⼦どもたちへ、多様な地形に富む⼤島海峡の価値を共有していきたい”
そんな想いから、先週末11月19日(土)に瀬⼾内町きゅら島交流館にて開催されたシンポジウム「さかなクンと学ぼう!大島海峡のサンゴ礁と不思議な生きもの達」。当日は、親子連れの参加者が多く見られ、子どもから大人まで約200名の瀬戸内町民が参加した。

そして、ダイビングスポットとしても人気な大島海峡の海のコトについて理解を深めるべく、奄美在住のオーシャナ編集部・中西もシンポジウムに参加。WWFジャパン親善大使を務めるさかなクンによる大島海峡のおさかなクイズをはじめ、今も多くの謎に包まれているアマミホシゾラフグの生態、サンゴの役割、海を守る取り組みなど、「大島海峡ってこんなにすごい海だったんだ」と興味が益々湧いてくるようなお話を聞くことができた。
もしかしたら、子どもたちよりもわたしの方がのめり込んで各専門家の話を聞いていたかもしれない(笑)。そこで、書きはじめると止まらなさそうな今回のシンポジウムの内容について、要点をまとめて皆さんにレポートをお届けしたい。また、ダイバー歴20年というさかなクンへ、ダイビングのこと、大島海峡の海の魅力についてインタビューをすることができた。
目次
専門家5名がそれぞれ別の角度から語る。大島海峡の魅力
・実は超レア!アマミホシゾラフグがすぐに会える距離に住むのは大島海峡だけ
・奄美大島のサンゴから過去400年間の水温を復元。記録から分かること。
・白化したサンゴが生き延びるほど健康度が高い、大島海峡のサンゴ礁
・「海を守る会」今の取り組みと今後行っていきたいこととは
・さかなクン、瀬戸内町で出会った魚のクイズを出題!
登壇者5名の「夢」とは?
ダイバー歴20年のさかなクンにクイックインタビュー!
専門家5名がそれぞれ別の角度から語る。大島海峡の魅力
実は超レア!アマミホシゾラフグがすぐに会える距離に住むのは大島海峡だけ
最初の登壇は、約100種というフグ展示数で世界一を誇る市立しものせき水族館「海響館かいきょうかん」の学芸員であり、まだまだ謎の多いアマミホシゾラフグの研究に携わる園山貴之そのやまたかゆき(以下、園山)氏による「大島海峡に生息するアマミホシゾラフグの生態と魅力」のお話。アマミホシゾラフグは、2011年に水中写真家の大方洋二おおかたようじ氏によって大島海峡で初めて発見され、奄美の水深10~30m、沖縄の水深100mで生息しているとのこと、オーストラリアでは水深129~137mでミステリーサークルが発見されている。このミステリーサークルとは、オスがメスを求愛する時につくる謎の産卵巣のことで、ダイバーにも人気だ。
しかし、4月〜7月の繁殖時期以外は砂の中で埋もれて生活しているため、詳しい生態系は今でも明らかになっていないよう。園山氏は、「アマミホシゾラフグの生態系の解明に向けてすぐに観察できるのは、水深10~30mで見られるここ大島海峡だけ。生態の解明や保全活動ができる世界で唯一の場所である」と述べ、貴重な大島海峡の生態系を守っていく大切さを伝えた。
奄美大島のサンゴから過去400年間の水温を復元。記録から分かること。
次の登壇は、東京大学大気海洋研究所教授であり、気候変動や地殻変動などのトピックを研究している横山祐典よこやまゆうすけ(以下、横山)氏による、「奄美の海が伝える地球環境の今昔」のお話。現在、気温を測る際には温度計や百葉箱などが用いられているが、技術のない時代の気温はサンゴから知ることができるというのだ。
木の年輪や江戸時代に書かれた日記や桜の開花時期の記録などの古文書のように、サンゴの骨には過去の水温を知ることができるプロキシ(=間接的な指標)がある。そして、研究の結果、奄美大島のサンゴのプロキシから過去400年間の奄美大島群島付近の水温を知ることができたという。
また、地球温暖化の原因として挙げられる、二酸化炭素が海の中に溶け込むことで起こる「海水の酸化」についても、サンゴ研究記録によって酸性化が徐々に進んでいることが判明。海水の酸化」の影響で、サンゴの骨格形成にも影響を与えているという。これらのことから、「身近な自然に興味を持って見方を変え、環境保全についても考えてほしい。大島海峡や周りの不思議にアンテナを張ってみましょう」と横山氏は参加者へ伝えた。

白化したサンゴが生き延びるほど健康度が高い、大島海峡のサンゴ礁
3番目の登壇は、琉球大学にてサンゴの研究を行い、日本自然保護協会にて日本の海の保護活動を担当している安部真理子あべまりこ(以下、安部)氏による、「世界の海の今と大島海峡」のお話。
安部氏は、グレードバリアリーフで発見されているサンゴの種類が350種に対し、日本は琉球列島だけで400種の種類が発見されており、北に流氷、南にサンゴ礁をもつ多様性に富んだ日本の海の豊かさにも触れた。そして、サンゴの生態系や白化のメカニズムについても説明。その上で、「健康な状態を維持しているサンゴは白化しても元に戻る確率が高い。健康なサンゴを守るためには、陸からの赤土や化学物質の流出を防ぐこと、特定の生き物だけを取りすぎないなど生物多様性を維持することが大切」と述べた。
そして、「大島海峡のサンゴ礁は健康度が高く、瀬戸内町・西古見で白化が発見されたサンゴ礁が生き延びていることが確認されている。また、ツツコエダナガレハナサンゴ、カナボウヤギスナギンチャクなど多くの新種・貴重種がまだまだ発見されている可能性に満ちた海である」と大島海峡の海の素晴らしさを紹介。
そして最後に、深海の女王と言われる著名なアメリカ人海洋学者シルヴィア・アールの「すべての人がすべてのことをできるわけではない。だが、すべての人がより良い方向にする何かをできる。(No everyone can do everything, but everyone can do something to make difference. )」という言葉を紹介し、「まずは、海や海の生き物に関心を持ち、海に行ってみよう。そして、自分に何ができるか考えてみましょう」と集まった瀬戸内町民へ呼びかけた。
「海を守る会」今の取り組みと今後行っていきたいこととは
登壇と同時に、「みんな一回立って背伸びをしましょう」と言ったのは、奄美せとうち観光協会理事瀬戸内町海を守る会会長でマリンショップ「ダンデライオン奄美」代表の祝隆之いわいたかゆき(以下、祝)氏。集中力が切れてきた子どもたちは、パッと立ち上がり思い切り背伸びをした。瀬戸内町出身である祝氏は、自身が会長を務める「海を守る会の取り組み」について話した。
まず、1980年に漁師ダイバーであった迫田藤雄氏によってスタートしたという「海を守る会」の現在の取り組みについて紹介。主に、サンゴの上にアンカーを落とさないようブイの設置、リーフチェック活動、水中清掃活動の3つの取り組みを行っているという。紹介時には水中清掃をしている様子、イルカやサンゴ、ウミガメなど大島海峡で見ることができるさまざまな海の映像をスクリーンに投影。参加者全員その映像に釘付けになっていた。
また、瀬戸内町の子どもたちに海の価値を知って欲しいという想いから「海を守る会」が新たに行っていきたいことを発表。安全で楽しいシュノーケル体験をしてもらい、大島海峡の素晴らしいサンゴや魚に出会えるポイントでの観察会の開催、豊かな海を守るためのプラスチックごみ回収などのビーチクリーニングを通して、ごみがどのようにして環境を破壊するのか、「自分たちに何ができるのか?」などをテーマに各学校や集落ごとにワークショップの実施を上げた。これは、「楽しい」から環境問題を考えてもらえたらいいな、という祝氏の想いが込められている。

さかなクン、瀬戸内町で出会った魚のクイズを出題!
最後は、子どもたちが会いたくてたまらなかったさかなクン。スクリーンにぶつかるというハプニングがありながら勢いよく登場!実は、このシンポジウムの2日前にNHKの番組『ギョギョッとサカナ★スター』の撮影で瀬戸内町に来ていたということで、その時に出会った魚や、過去に園山氏と潜った時に見たふぐのお話など、自身で描いた絵をスクリーンに投影しながら説明。「瀬戸内町の海が大好きで、瀬戸内町に来るのはギョ回目(5回目)です」と大島海峡の魅力を語った。
その後、さかなクンによる瀬戸内町で出会った魚のクイズがスタート!まずは、ヒレナガカンパチ、タカサゴヒメジ、アマミホシゾラフグの絵を描く。1分経たないうちに魚1匹描いてしまうさかなクンのパフォーマンスに会場も大盛り上がり。描いている間も、その魚の名前の由来や特徴をわかりやすく説明。子どもたちもその様子に興味津々の様子。そして3匹描き終えたところで「この中でお片付けするのが得意なお魚は?」とクイズが出題された。
さかなクンの格好をした男の子が当てられ、アマミホシゾラフグと回答し見事正解!絵がプレゼントされた。と思いきや、実はどの魚を当てても正解だったというオチがさかなクンらしい(笑)。ちなみに、それぞれの正解は、カンパチは奄美大島の方言で「そうじ(=掃除)」、タカサゴヒメジも奄美大島の方言で「カタース(片付ける)」、ミホシゾラフグは「ふぐ(すぐ)片付ける」というギョやじギャグでした。
登壇者5名の「夢」とは?
最後は、子どもに向けたシンポジウムということもあり、司会進行のWWFジャパン小田倫子おだともこ氏より登壇者5名に向け「みなさんの夢はなんですか?」という質問が投げかけられた。
園山氏 「アマミホシゾラフの研究にずっと携わってきているので、解明したいという気持ちはありますが、それだけでなく、自分がやっている研究に影響を受けて地元の方が解明に向けて動いてもらえると嬉しいです」。
横山氏 「今までいろんな研究でいろんな地域に行き、新しいことや新しい人に出会って刺激を受けてきた。でも、そのためには、みんなが仲良くしないとできない。だから、みんなと友達になって仲良くなるのが夢」。
安部氏 「現在90歳ぐらいの方に、“若い頃はサンゴをバリバリ踏んでもそれでも次の年には無事元の戻っていた”という話を聞いたことがあり、自分がサンゴ礁に行き始めたときはそれほど健康なサンゴ礁はもうなかったので、いつか出会いたい」。
祝氏 「先輩たちから預かっているサンゴを次世代の子どもたちにつなげていくこと」。
さかなクン 「瀬戸内町のみんなが地元の海を大切にしているから本当に素敵な自然があると思う。そして海を守るのも大切だけど、壊さないことも大事。夢は、奄美の海がいつまでも綺麗であることです」。
とそれぞれの夢を語った。

ダイバー歴20年のさかなクンにクイックインタビュー!
シンポジウムの最後に、さかなクンへ少しだけインタビューする時間をいただけた。そこで、さかなクンのダイビング事情、オーシャナ読者に向け瀬戸内町の海の魅力をお聞きした。
編集部 ダイビングメディアのオーシャナです!よろしくお願いします。
さかなクン 私もダイビング大好きですよ!
編集部 そうなのですね!ダイビングはいつからされているのですか?
さかなクン ダイビング歴は20年あまりですかね。最初にCカードを取ったのは確か2000年です。
編集部 ダイビング歴20年!水中写真でお魚を撮られたりもするのですか?
さかなクン デジカメにカバーを付けてたまに撮るけど、ほとんど撮らないです。「会えた!」「カスミアジちゃんだ!」と一魚一会いちぎょいちえの感動を大事にしています。どちらかというと出会った時の感動を冷めやらぬうちに絵を描いています。将来的には水中写真を撮りたいなと思っています。
編集部 やはり出会いを大切にされているのですね。最後に、オーシャナ読者に向けて大島海峡の魅力についてコメントをいただきたいです。
さかなクン 大島海峡は、アマミホシゾラフグのミステリーサークルが見れる、世界でも唯一と言っていい場所です。以前、番組の撮影で伝説のフグに会いに行った時も、お目当てのフグに出会うまでの間もいろんなフグちゃんやいろんな種類の魚にも会えました。それはサンゴ礁が豊かで生態系がとっても元気な海だからだと思います!
シンポジウム「さかなクンと学ぼう!大島海峡のサンゴ礁と不思議な生きもの達」のレポート、いかがだっただろうか。私自身、「健康度が高いサンゴ礁」というフレーズがとても印象的だ。白化したからもう終わりではなく、白化しても耐え抜くほどの健康的なサンゴを守ることも人間活動でできることの一つ。人間も不健康な生活をしていると病気になりやすいように、サンゴと人間が同じ生き物であることを実感した。このレポートを通して、健康度の高いサンゴ礁が生み出す生態系豊かな元気な海、大島海峡の魅力が伝わり、そんな大切な生態系を壊さないよう日々の生活を見直すきっかけになったら嬉しい。
提供元・oceanα
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