せっかく接種したインフルエンザワクチンの「型ハズレ」がなくなります。

米国のペンシルベニア大学(UPenn)で行われた研究によれば、mRNA技術を用いることで、既知の20種類全ての型に対応する、万能インフルエンザワクチンを開発した、とのこと。

新たに開発された万能ワクチンは、人間社会で循環している通常の「季節型インフルエンザ」だけでなく、鳥インフルエンザなどパンデミックにつながりる「イレギュラーな型」に対しても保護効果があります。

また既存のインフルエンザワクチンはウイルスの体の一部を免疫の教科書として用いている一方で、新たな万能ワクチンは新型コロナウイルスのワクチンと同じmRNA技術が用いられている点でも画期的と言えるでしょう。

研究ではマウスとフェレットという異なる動物種に対しても、万能ワクチンが効果的に保護を発揮していることが示されており、ウイルスの「型」に対して万能であるだけでなく、家畜やペットなど多様な「種」に対する万能性もあると考えられています。

しかし研究者たちはいったいどうやって、1つのワクチンの中に、複数のウイルス型に対抗する機能を埋め込んだのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年11月24日に『Science』にて掲載されています。

あらゆるインフルエンザ型に対応した万能「mRNA」ワクチンを開発

まずこれまで知られている全20種類のインフルエンザウイルスから遺伝子を抽出しmRNAワクチンの内部に組み込んでいきます
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

20種類のインフルエンザウイルスの遺伝子を組み込んだmRNAワクチンをマウスに打ち込みます
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

するとマウス体内でさまざまな型のウイルスの断片が出現し免疫の訓練が劇的に進みます
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万能ワクチンの訓練効果は高く変異率が高いインフルエンザに感染しても死にませんでした
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

インフルエンザウイルスのワクチンを接種した人ならば

「今年もインフルエンザワクチン打ったけど型が違えば無駄なんだよね……」

という文句を聞いたことがあるでしょう。

これは、インフルエンザウイルスには20種類の型が存在している一方で、従来のインフルエンザワクチンが提供してくれる保護効果は、そのうちの1種類に過ぎないからです。

人間社会で流行が頻繁なものはA型のH1N1とH3N3、B型のビクトリア系と山形系の4種類となっており、毎年どの型のウイルスが流行するかは綿密なデータをもとに予測されています。

しかし残念ながら、予想は外れる場合もあります。

また過去には鳥インフルエンザなど、通常の季節性(4種類)以外の16種類の型の感染が流行を起こしたケースも知られています。

そして厄介なことに、通常の季節性以外の16種類は人類の免疫システムに馴染みが薄い「イレギュラーな型」であるため、高い感染力や高い死亡率など、しばしばパンデミックと呼べる重大な現象を引き起こします。

これまでの研究により、季節性を予防するためのインフルエンザワクチンはパンデミックを起こすイレギュラー型に対して効果がないことが知られています。

新型コロナウイルスがパンデミックを起こしたのも、通常のコロナウイルスが人類にとって馴染みが深い風邪ウイルスである一方で、「新型」はコウモリから人間に「ジャンプ」を起こしたウイルスだったためだと考えられています。

以前に行われた複数の研究により、種をまたいで感染したウイルスは感染性や死亡率が高くなる場合があることが知られています。

そのため将来、再び動物からジャンプした「新型」インフルエンザウイルスが出現した場合「スペインかぜ」のような悲劇が繰り返される可能性があります。

(※スペインかぜは1918年から1920年ごろにかけてパンデミックを起こしたH1N1亜種のインフルエンザウイルスであり、世界人口の27%が感染し推定死者は1億人にのぼるとも予想されています。なお当時の世界人口はおよそ18億~19億人でした。原因は動物からの種をまたいだ感染とする説もありますが詳しくは不明です)

そこで今回、ペンシルベニア大学の研究者たちは、既知の20種類のインフルエンザの全ての型に対して保護効果を発揮する、万能インフルエンザワクチンを開発することにしました。