義肢、白杖、電動車椅子、補聴器などは、身体障がい者の生活をサポートするための支援機器です。

最近、アメリカ・テキサス大学オースティン校(The University of Texas at Austin)神経科に所属するホセ・デル・R・ミラン氏ら研究チームは、思念でコントロールできる車椅子を開発しました。

その結果、コントロール技術を向上させるには脳波を変化させることが大切だと判明しています。

研究の詳細は、2022年11月18日付の科学誌『iScience』に掲載されました。

キャップを被って念じるだけで方向転換する車椅子

「思念で動かすロボットハンド」「念じるだけで文字入力できるマインドライティング」など、思念でコントロールする技術は、さまざまな分野で研究されています。

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そしてこれらの技術は、特に重度の身体障がい者と相性が良いと言えます。

身体を動かすことができなくても、思念だけで支援機器を扱えるようになるからです。

今回ミラン氏ら研究チームは、思念でコントロールできる電動車椅子を開発しました。

ユーザーは専用キャップを被るだけで脳波が読み取られ、車椅子の方向を操作できます。

「キャップを被って念じるだけ」で操作できる
Credit:José del R. Millán(The University of Texas at Austin)_Tetraplegic Patients Take Mind-Controlled Wheelchair for a Spin(2022 The Scientist)

具体的には、頭の中で「両手を上げよう」と考えると車椅子は左折し、「両足を動かそう」と考えると右折するようになっています。

実用的なレベルまで習得するにはいくらかトレーニングが必要ですが、電極を脳に刺す必要もないため、身障者たちも安心して取り組めます。

そして実験には、3人の四肢麻痺患者(それぞれ参加者①、参加者②、参加者③とする)が参加。

彼らはそれぞれ週3回のトレーニングを2~5カ月間受けました。

最初のトレーニングでは、3人とも43~55%の精度(自分の考えと車椅子の動きが一致した割合)を示しました。

しかしトレーニングにより、参加者①は95%にまで精度を高めることができました。

また参加者③は、トレーニングの途中から別のアルゴリズムに変更することで、精度が98%にまで向上。

思念だけで車椅子をコントロールしている様子
Credit:New Scientist (YouTube)_Paralysed patient steers a wheelchair with their thoughts alone(2022)

ところが参加者②は、他の2人ほど高いパフォーマンスを発揮しませんでした。

最初のセッションで精度がわずかに上昇しただけで、その後は大きな変化が見られなかったのです。

では参加者によって結果に大きな違いが出たのはなぜでしょうか?