性染色体同士の血塗られた歴史がみえてきました。

デンマークのオーフス大学(Aarhus University)で行われた研究によって、今から5万年前に出現した変異X染色体はY染色体を持つ精子を殺し、女性だけしかうまれないように誘導していた可能性が示されました

人間の性別はY染色体を運ぶY精子が受精すれば男性に、X染色体を運ぶX精子が受精すれば女性がうまれてきます。

変異X染色体はY精子を選択的に殺し女性だけうまれるようにすることで、X染色体を1本しか持てない男性よりもX染色体を2本もてる女性を増やし、人類集団での勢力拡大を狙ったようです。

しかし、もしそうであるならば、人類はいかにして絶滅の危機を乗り切ったのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年9月20日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されています。

X染色体とY染色体の血塗られた歴史

X染色体とY染色体の血塗られた歴史
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

あまり知られていない事実ですが、私たちのX染色体とY染色体は長年にわたり、殺し合いをしてきました。

人間の性別はX染色体が2つで女性(XX)、X染色体とY染色体が1つずつで男性(XY)になり、男女比が等しい場合、X染色体とY染色体の勢力比は3:1となります。

人類にとって、このX・Y比率は男女比が等しくなるため、大変都合がいいものとなっています。

しかし生物の遺伝子には、自らのコピーを少しでも多くしようとする「利己的」な性質があることが知られており、ときには競合者の直接的な排除や殺害という露骨な手段がとられることが知られています。

近年の研究では、驚くべきことに、この暴力的な利己性がX染色体とY染色体の間にも存在することがわかってきました。

人類をはじめXY染色体の組み合わせで性別を決めている生物にとっては、XYどちらの染色体も種を維持するために必要不可欠な存在です。

(※大部分の哺乳類やニジマスなどの一部の魚、やチョウ、ハエなど一部の昆虫もXY染色体で性別を決めています)

しかしX染色体にとってはY染色体が存在しない方が自らの勢力比を高くすることができ、Y染色体にとってもX染色体の比率が低ければ低いほど、自らの勢力を拡大することができます。

積み重ねられた遺伝的な解析は、X染色体とY染色体が長年の歴史のなかで、相手を殺す攻撃方法と自分の身を守る防御方法の両方を競い合うように進化させてきたことを示しています。

X染色体とY染色体の戦いの「完全決着」は種の絶滅を意味しますが、利己性の塊のような遺伝子たちにとって、そんなことはどうてもいいようです。

このような暴力的な染色体同士の抗争が人類の進化の過程でも起きていたのか、起きていたのなら現在の私たちの遺伝子にどのような影響を与えたのでしょうか?