医療保険やがん保険で、必ずといってよいほど耳にする“先進医療”。先進医療保障は商品によっては主契約に含まれているものもあるが、特約として付加する商品が圧倒的に多い。そのため先進医療保障を特約として付加すべきなのか迷ってしまう人もいるだろう。

先進医療とは、まだ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術など

先進医療は、厚生労働省の『先進医療の概要』によって、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」と定められている。つまり、厚生労働省が認める先進的医療であり、保険診療の対象として適正かを評価中の医療技術を指している。

先進医療は自己負担が医療費の1割から3割で済む保険診療とは違って、費用は全額自己負担となる。

一般的には、保険診療の場合、医療費が高額になっても『高額療養費制度』を利用すれば、収入に応じて定められた1か月の上限額を超えて医療費を支払うことはない。しかし、先進医療は保険外診療であるため、高額療養費制度を利用することもできない。こうした先進医療における患者の経済的負担の大きさが、昨今、保険で先進医療保障をうたう特約を目にする機会が多い理由だ。

実際には先進医療を受ける可能性は決して高くない

厚生労働省発表の『先進医療の各技術の概要』によれば、厚生労働省に認定されている先進医療技術は2018年5月1日現在で91種類だ。

内訳は、先進医療A(未承認・適応外の医薬品や医療機器を使わない、それらを使っても人体への影響が極めて少ない。国が実施可能な医療機関の施設基準を設定)が28種類、先進医療B(未承認・適応外の医薬品を使用している、それらを使用していなくても医療技術の安全性・有効性等に鑑み、重点的な観察・評価が必要なもの。医療機関ごとに実施の可否を決定)は63種類ある。

これらの先進医療技術は、安全性・有効性・技術的成熟度が確認されれば保険診療として認められたり、実施件数が伸びなければ先進医療技術としての認定が取り下げられたり、あるいは先進医療Aから先進医療Bに移行するなどの見直しが適宜行われている。

限られた種類の先進医療技術しか実施が認められていない上に、先進医療技術ごとに細かな施設基準が定められており、その基準を満たしている医療機関に対してのみ国が当該先進医療技術の実施を認めている、または医療機関ごとに国が実施の可否を決定しているため、国内で先進医療を受けられる医療機関も限定されている。

対象となる適応症も厳密に定められている。患者が一般の保険診療を受ける中で、疾病・症状など細かな条件が合致しており、患者の希望を受けて医師がその必要性と合理性を認めた場合だけ先進医療を受けられるのだ。つまり、先進医療を受けられる人は非常に限られていると言わざるを得ない。

厚生労働省の『平成28年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について』では、1年間における各先進医療技術の実施件数が報告されており、実施件数の多い上位10技術を併せると合計2万3102件であった。実施件数が1万1478件であり、全体の半数近くを占めるのが白内障治療のための「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」であることを考えると、それ以外の先進医療を受ける機会は多くないといえよう。

●先進医療の実施件数が多い上位9技術(2015年7月1日~2016年6月30日、先進医療Aのみ)

技術名/年間実施件数/1件当たりの先進医療費用
・多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術/1万1478件/55万4707円
・前眼部三次元画像解析/6739件/3662円
・陽子線治療/2016件/276万22円
・重粒子線治療/1787件/309万3057円
・歯周外科治療におけるバイオ・リジェネレーション法/277件/6万4629円
・EBウイルス感染症迅速診断(リアルタイムPCR法)/234件/1万5761円
・高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術/145件/30万1000円
・腹腔鏡下広汎子宮全摘術/136件/74万8666円
・抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査/118件/3万7722円

(厚生労働省『平成28年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について』をもとに筆者作成)

先進医療は高額なものばかりでない 

実施件数の多い先進医療10技術だけを見ても分かるように、先進医療に係る費用は、数百万円もする高額なものばかりではない。実際、先進医療として認定されている「前眼部三次元画像解析」や「EBウイルス感染症迅速診断」のような検査技術であれば費用が数万円以内で済むこともある。実施件数が最も多い「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は1件あたりの先進医療費用は55万4707円である。

医療保険やがん保険の広告でよく耳にする「がん治療で先進医療を受けると高額な費用が必要になる」の根拠は、診察・検査・投薬・注射・入院料等は公的医療保険の対象であるものの、先進医療技術費用は全額自己負担であることや「重粒子線治療」「陽子線治療」の費用が高額であることにある。それでも、『最新がん統計』における2013年罹患全国推計値が86万2452例であることからすると、重粒子線治療と陽子線治療の年間実施件数の合計3803件は、実際にがんに罹患してもどちらの治療も受ける可能性は低いといってよい数値だ。

それ以外の先進医療費用が高額な上位10技術の年間実施件数は数件から多くても100件程度であり、こちらもたいていの人はほとんど関わることはない医療技術だろう。

先進医療費用が高額な上位10技術は次のとおりである。参考までにご覧いただきたい。

●1件あたりの先進医療費用が高額な技術(2015年7月1日~2016年6月30日)

技術名/年間実施件数/1件当たりの先進医療費用

(先進医療A)
・重粒子線治療/1787件/309万3057円
・陽子線治療/2016件/276万22円
・樹状細胞及び腫瘍抗原ペプチドを用いたがんワクチン療法/65件/129万1191円

(先進医療B)
・経カテーテル大動脈弁植込み術/8件/477万2000円
・自己口腔粘膜及び羊膜を用いた培養上皮細胞シートの移植術(スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡 又は熱・化学腐食に起因する難治性の角結膜疾患)/9件/237万3000円
・ベペルミノゲンペルプラスミドによる血管新生療法(閉塞性動脈硬化症又はビュルガー病)/1件/220万5700円
・ゾレドロン酸誘導γδT細胞を用いた免疫療法(非小細胞肺がん)/5件/167万2000円
・オクトレオチド皮下注射療法(先天性高インスリン血症)/1件/166万6672円
・重症低血糖発作を伴うインスリン依存性糖尿病に対する脳死ドナー又は心停止ドナーからの膵島移植/1件/138万120円

(厚生労働省『平成28年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について』をもとに筆者作成)

先進医療の実施件数を見る限り、次のことが結論付けられる。

・先進医療の実施件数自体は決して多くはない
・高額な費用が必要な医療技術であっても、その治療を受ける可能性はかなり低い
・誰もが大きな費用負担に備えなければならない状況ではない

もう一点、先進医療は保険診療の対象として適正かを評価中の医療技術であることも忘れないでおいてほしい。そのため、その安全性・有効性・技術的成熟度などが認められれば、重粒子線治療や陽子線治療のように技術料が高額な先進医療も数年後に保険診療の対象に組み込まれる可能性がある。現在、先進医療として300万円程度の技術料が全額自己負担となっていても、保険診療になれば30万円から90万円で済むようになる。

先進医療特約が必要かどうかをどう判断する?

先進医療という先端医療技術は多くの人にとって身近な治療ではないため、多額な費用負担を強いられる確率もかなり低いことをお伝えしてきた。

しかし、医療保険やがん保険に先進医療保障が主契約に組み込まれていない場合、先進医療特約を付加しなくてもよいともいい切れない。ここからは、先進医療特約を付ける意義について検証していきたい。

まずは一部商品について、30歳男性を対象とした先進医療特約とその他の特約部分の月払保険料を比較してほしい。

『アクサダイレクトの終身医療』
先進医療特約 120円
三大疾病保険料払込免除特約 188円
長期入院時一時金給付特約 450円
入院時一時金給付特約(15) 650円

チューリッヒ生命『終身医療保険プレミアムDX』
先進医療特約 132円
7大疾病延長入院特約/ストレス性疾病延長入院特約 585円
退院後通院特約 370円

ネオファースト生命『ネオdeいちじきん』
先進医療特約 39円
特定生活習慣病入院一時給付特約 372円
特定疾病保険料払込免除特約㈵型 389円

FWD富士生命『医療ベスト・ゴールド』
先進医療特約 135円
特定疾病一時金特約(50万円) 1164円
手術総合保障特約(10万円) 672円

『楽天生命ガン診断プラス』
先進医療特約 82円
その他特約の設定なし

どの商品についても、先進医療特約がその他の特約に比べて保険料が安いのがお分かりいただけるだろう。

そもそも、契約者が払い込む保険料は大半が保険資金となり、所定の保険事故が発生した場合に保険金として支払われる。そのため、所定の保険事故発生リスクが高ければ保険料は高くなり、発生リスクが低ければ保険料が安くなる仕組みだ。

総体的にみて先進医療特約の保険料が安く設定されているのは、各保険会社が先進医療を受ける可能性が低い現状を反映しているからだ。こうした現状を踏まえた上で、先進医療の必要性を考えた場合、一口に先進医療といっても、その費用は技術によって大きな開きがあり、費用が数百万円にも上る高額な先進医療を受ける可能性は極めて少ないにしろゼロではない。

重粒子線治療や陽子線治療、その他の高額な先進医療を受けることになった場合、それも、がん治療であれば数度繰り返される可能性もある。このような状況で1千万円近くにもなる高額な自己負担を賄えるだけの預貯金があれば特約を付加しない選択もできる。しかし、多少でも経済的な不安があれば、月々少額の月払保険料を上乗せするだけで大きな安心を得られると考えて、先進医療特約を付加するのもよいだろう。万が一数百万円もの高額な先進医療を受けた場合の費用対効果の高さはいうまでもない。

文・ZUU online編集部

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