「Tレックス」こと「ティラノサウルス」は、巨大で獰猛な恐竜として有名です。
現在、記録上最も大きいTレックスの生前体重は、8870kgだと考えられています。
では、もっと大きなTレックスは存在していたのでしょうか?
カナダ自然博物館の古生物学者ジョーダン・マロン氏ら研究チームは、新しい研究で「最大のTレックスはさらに70%大きい」と述べました。
今回の研究結果は、2022年11月5日に、カナダ・トロントで開催された古脊椎動物学会(SVP)の年次会議で発表されました。
「過去最大のTレックス」を推測する試み
2021年に行われたカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の研究では、かつて地球上には25億頭ものTレックスが生息していたと推定されています。
しかし現時点で見つかっているTレックス成体の化石は、わずか32体しかありません。
その中で最も大きなTレックスは、「スコッティ」と命名されました。

スコッティは生前8870kgだったと推定されており、これは非常に大きなアフリカゾウと同等の体重です。
スコッティの記録だけでもTレックスが十分巨大な存在だったと分かりますね。
それでも発見された化石が少数であることを考えると、もっと大きな個体が存在していた可能性は十分あります。
そこでマロン氏ら研究チームは、「雌雄の差」に着目した1つの思考実験を行いました。
生物には、「性的二形(せいてきにけい)」という現象が見られます。
これは生殖器以外に雌雄の差をはっきり区別できるものを指し、主に体格や構造の違いとして現れます。

例えば、キジ科の一種「コウライキジ」のオスは、メスに比べて体が大きく、色や模様も異なります。
また大型のクモである「オオジョロウグモ」は、メスの体長がオスの3~5倍も大きくなります。
もしTレックスにも同様の性的二形が見られるなら、私たちの想像以上に巨大な個体が存在していたとしても不思議ではありません。
「雌雄の差」と「成長曲線」から推測できる最大のTレックスとは?
研究チームは、Tレックスの個体数や平均寿命を調査し、性的二形に基づく体格のバリエーションを考慮しました。
そして「性的二形の要素がゼロ」のケースと、「強い性的二形」を示したケースの2パターンを作成。

後者の「強い性的二形を示したモデル」では、最大24トン(2万4000kg)のTレックスが存在するという結果が出ました。
しかしこの極端なモデルが正しければ、これまでにもっと大きな個体が見つかっているはずです。
それゆえ極端なモデルは却下されました。
それでも研究チームは、これらのデータを使用してTレックスの生涯にわたる成長曲線をモデル化し、成体がどれだけ大きく成長するかを予測しました。

その結果、最大のTレックスは15トン(1万5000kg)だと推定され、これは記録上最大のスコッティよりも70%大きかったことになります。
性的二形の極端なモデルほど大きくありませんが、それでも私たちがこれまで想像してきた「一般的なTレックスのほぼ2倍」のサイズです。
もちろん、マロン氏が「これは単なる数字を使った思考実験に過ぎません」と述べているように、本当のところは化石が発見されるまで不明のままです。
それでも、Tレックスの個体差が示す可能性は、私たちをこれまで以上にワクワクさせてくれます。
参考文献
T. rex could have been 70% bigger than fossils suggest, new study shows