そういう意味では、大胆な秘策がなければ、前述の5000億円+大型内外装の入れ替え費用を回収し、さらにバリューアップをするなど、どのように考えても思いつかない。ただ一つ確定的なのは、フォートレスのパートナーがヨドバシホールディングスなのだから、ヨドバシの資産を活用するのがもっとも手っ取り早いし、そのような取り決めがあったから合意に至ったのだろうということだ。

フォートレス・ヨドバシ連合が取りうる4つの方向性

 したがって、こうした考察から得られる仮説としては、以下が考えられる。

1.まず、もっとも自然なのは百貨店店業態の中で、もっとも勝ち筋が見える立地に「ヨドバシカメラマルチメディア」を出店するということだ。イメージ想起されるのは、大阪の「ヨドバシカメラマルチメディア梅田」のような業態だ。
2.次に、競合がひしめくレッドオーシャン立地の場合だ。フォートレスが得意とする不動産事業で、完全デベロッパーに徹し、人気テナントを入れ、ヨドバシの店舗運営ノウハウをいかして駅ビル店舗を作ることも考えられる。屋号は「ヨドバシカメラマルチメディア」かもしれないが、より都市型ライフスタイル店舗になるはずだ。
3.次に、観光立国宣言した日本のインバウンド消費を狙い、ヨドバシカメラのノウハウをいかし、インバウンド需要に特化した業態開発を行うことも考えられる。ただこの業態は、1か2の中に併設されるはずだ。
4.1〜3への転換ができない店舗については、オフィス・テナント、ホテルなど、その土地にあった業態転換に転換するだろう。だが、ファンドとはいえ、それほど湯水のように金がでてくるわけではない。大きなリストラを繰り返し、シャビーな店舗でも我慢し続けて1-3が投資フリーキャッシュを生み出すまで耐え忍ぶだろう。覚えておきたいのは、ファンドは、経営破綻が現実のものにならない限り追い金は絶対にださない。

 しかし、再生系ファンドはこうした、いわば、セオリー通りの再建だけを得意としているわけではない。西武・そごうには失礼だが、好立地にありながら閑古鳥が鳴いている赤字店を何年も放置し、不動産価値を含めても極めて安価、一店舗平均で200億円値にまで価値毀損させた。このことは、ファンドから見れば「安いから買っておく」というのは、ありうる話だ。安く買い叩けるため、いわば、何をやっても前よりもましになる、という算段である。こうしたメカニズムも働いているとしたら、ますます、そごう・西武の変貌先は新しい株主でさえも「これから詳細は検討する」という部分があっても不思議ではない。

*11月24日朝5時45分 テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に私、河合拓が出演し、ますます日本で存在感を表してきたShein(シーイン)についての分析をインタビュー形式で語ります。ぜひご覧ください。

文・河合 拓/提供元・DCSオンライン

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