「ヘル朝鮮」の実態
金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義―「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)は、韓国国民の生の声をふんだんに盛り込んでおり、データや論よりも実感として「この社会で生きるのはキツ過ぎる!」と感じられるエピソードや実態が報告されています。
タイトル、帯からして「韓国社会の苛烈さ」が伝わりますね。

入試日の模様を象徴とする、韓国社会の受験戦争の激しさは日本でもよく報じられているところですが、名門学校に入るための塾に通うために引っ越したり、子供の留学のために父親だけが単身韓国に残りせっせと資金を母子に供給したり。そうまでして学歴を手にしても就職できない。
なんとか就職しても50代でリストラ、子供の教育費と親の面倒を見るために家計は破綻、リストラ後の仕事と言えばチキンを売るしかない。高齢になっても非正規で働き続け(世界一長く働き続けるのが韓国の老人らしい)、それでも貧困に陥る人が5割に迫る勢い……などなど。1冊を通じで語られる韓国社会における韓国人の生涯を想像すると、ゆりかごから墓場まで、人生のすべてのステージで苛烈な競争が行われていて、生まれてから死ぬまで息つく暇もない、といった印象です。
自殺も多く、精神に変調をきたす人も多いとか。まさに「ヘル朝鮮」。
『週刊ポスト』が「怒りを抑制できない 韓国人という病理」との記事タイトルで顰蹙を買いましたが、「これじゃ怒り(や感情)を抑制できなくても無理はないよな……」と思わざるを得ないほどのストレスフル社会といった感。
「30年で、西欧の300年を圧縮して経験した」
なぜ事ここに至ってしまったのか。「はじめに」で指摘されています。
この65年で470倍もの成長を遂げた韓国経済は、西欧が数百年かかった経済発展の過程を、わずか数十年に圧縮して経験した。だがこの異常な「圧縮成長」は、大きな副作用ももたらした。
さらに、韓国の代表的な知識人であるというキム・ジンギョン氏の〈韓国は60年代以降、30年で西欧の300年を圧縮して経験した〉〈恐ろしい速度で、自分自身を振り返るということは不可能であり、必要なことともみなされなかった〉という言も引いています。