魚の中には、季節によって食べるものがガラリと変わってしまうものが少なくありません。中でも極端な例として「冬だけはベジタリアン」という魚たちがいます。
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磯焼けの原因「ベジタリアン魚」
近年、全国各地で「磯焼け」という現象が問題になっているのをご存知でしょうか。
磯焼けとは、とある海域にもともと生えていた海藻が姿を消してしまうことで起こる「海の砂漠化」。
これにより、アワビやサザエのような海藻を食べる生物、あるいはイカ類のような海藻に産卵をする生物のような「海藻に依存した暮らし」を送る生物が減少してしまうことが問題になっています。
磯焼けの原因のうち最も大きなものは、海の温暖化によって海藻自体が生えにくくなってしまうことだといわれていますが、それと同様に問題視されているのが、海藻を食べる「ベジタリアン魚」が増えていることです。
ベジタリアンなのは冬だけ?
このような、海藻を食害することで磯焼けの原因となる魚には、アイゴ、ニザダイ、イスズミ、ブダイといった魚種が知られています。これらの魚は1日にかなりの量の海藻を食べてしまうことが研究により分かっています。
しかしその一方で、彼らはオキアミやカニといった動物性の餌を使用する磯釣りでも釣れる魚です。とくに海藻類が減少する高水温期には非常によく釣れます。
実は彼らは海藻類など植物性の餌だけではなく、動物性の餌も好む雑食性の魚。そのため海藻の茂る低水温期は海藻を飽食し、海藻の少ない高水温期は動物性の餌を主体に食べているのです。
「ベジタリアン期」は味が変わる
さて、この「季節性ベジタリアン魚」たちの中には「季節により食味評価が大きく変わる」という特徴をもつものがあります。
例えばイスズミやブダイは、夏場は大変磯臭さが強いため、ほとんどの人が見向きもせず、ネコすらも食べない「ねこまたぎ」と呼ばれます。その一方で、冬場はかなり美味しい魚とされており、狙って釣る人も少なくありません。海藻をよく食べる低水温期は、臭みが減り、脂がよく乗って美味しいと言われるのです。
しかし一方で、ニザダイやアイゴなどはその海藻食性故に「磯臭い魚」だと認識され、敬遠されてきました。しかし、近年釣り人が釣り餌として大量に用いるオキアミ餌を飽食するようになり、結果として海藻を食べる時期が短くなったために「昔と比べて美味しくなった」と言われることもあるようです。上記の例とは真逆のようにも思えてちょっと釈然としません。
実際のところ、食味が良くなるか悪くなるかはさておき、ベジタリアンの時期とそうでない時期で美味しさが変化するというのはもっともらしい話です。ニザダイなどはキャベツを食べさせて食味をよくする研究も実施されており、今後「ベジタリアン魚」に関する調査がより進んでいくのは間違いなさそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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