多忙な現代社会では、筋トレに時間を割いて美しい身体を手に入れるのは簡単ではありません。
そのため、より「効率的なトレーニング」が求められてきました。
最近、オーストラリア・エディスコーワン大学(ECU)に所属する野坂 和則氏ら研究チームは、重りを「引き上げる動作」よりも「ゆっくりと降ろす動作」が筋力向上・筋肥大に効果的だと発表しました。
重りをゆっくり降ろすだけでも十分に効果があるため、上げ下げの両方を意識するトレーニングよりも時間短縮できるかもしれません。
研究の詳細は、2022年9月15日付の科学誌『European Journal of Applied Physiology』に掲載されました。
「重りをゆっくり降ろす」筋トレとは?
筋力向上や筋肥大に欠かせないウエイトトレーニングは、主に2つの動作に分かれています。
1つ目は短縮性筋収縮(コンセントリック収縮)と呼ばれるもので、「重りを持ち上げる、引き上げる動作」になります。
ダンベルを持ち上げるときや力コブをつくるときのように、筋肉が縮みながら力を発揮している状態です。
2つ目は伸張性筋収縮(エキセントリック収縮)と呼ばれるもので、「重りをゆっくり降ろす動作」になります。
ダンベルを持ち上げた後にゆっくり降ろすときのように、筋肉が伸びながら力を発揮している状態です。
伸張性筋収縮のポイントは、「ゆっくりと降ろす」という部分です。
重力に任せて素早く重りを降ろしたとしても筋力はほとんど使用されないため、トレーニングにはなりません。
あえてゆっくりと降ろすことで、重力に対抗するよう筋力を働かせるのです。
ちなみに、ダンベルカールで「ダンベルを上げ下げ」しているように、一般的なトレーニングでは、上げる運動と降ろす運動を交互に繰り返します。
そして初心者の多くは、「筋力向上や筋肥大にはダンベルを上げる動作が大切だ」と考えています。
ダンベルを降ろすときに力を抜く人も多いのではないでしょうか?
しかし、野坂氏ら研究チームは、むしろダンベルをゆっくり降ろす運動の方が大切だと証明しました。
ダンベルをゆっくり降ろす動作を重視すると筋トレ効率がアップする
今回研究チームは、4つのグループにダンベルカール・トレーニングを5週間、週2回のペースで行ってもらい、それぞれ筋力や筋肥大にどのような差が生じるか検証しました。
4つのグループは、以下のようにトレーニングしました。
- ダンベルをゆっくり降ろす動作のみ(伸張性筋収縮のみ)
- ダンベルを上げる動作のみ(短縮性筋収縮のみ)
- ダンベルを上げ下げ両方(伸張性筋収縮と短縮性筋収縮の両方)
- 何もしない対象群
その結果、1~3のグループでは、重りを上げる力が向上していました。
つまり、どのようなトレーニングをしても、短縮性筋収縮での筋力は向上したのです。
しかし、ゆっくり降ろす力が向上したのは、「ゆっくり降ろす動作のみ」「両方」の2グループだけでした。
つまり、ダンベルを上げるだけのトレーニングでは、短縮性筋収縮での筋力は向上しますが、伸張性筋収縮での筋力は高まらなかったのです。
さらに、「ゆっくり降ろす動作のみ」グループは、「両方」グループの半分の運動回数だったにもかかわらず、2つのグループの筋力向上値は非常に似ていました。
また同じ条件でも、筋肥大の指標である「筋肉の厚さ」は、「ゆっくり降ろす動作のみ」グループは7.5%、「両方」グループは5.4%の増加がそれぞれ見られました。
この結果は、ダンベルをゆっくりと降ろすトレーニングがより効果的であることを示しています。
野坂氏も「伸張性筋収縮に重点を置いたトレーニングのメリットを理解することで、より効率的なトレーニングが可能になる」と述べています。
とはいえ、ダンベルをゆっくり降ろす動作を行うには、結局ダンベルを持ち上げなければいけません。
そこで野沢氏は、「両腕を使ってダンベルを持ち上げ、片方の腕だけを使ってダンベルをゆっくりと降ろす」方法を提案しています。
この方法であれば、ダンベルを上げるときの筋疲労を減らし、その分、ダンベルを降ろすときの負荷を高めることができるでしょう。
しかし今回の実験は、普段トレーニングしていない成人の二頭筋を対象にしたものであり、トレーニング歴や部位によって結果が異なる可能性もあります。
今後は、より広範囲で「重りをゆっくり降ろす」トレーニングの優位性が認められるか調査する必要があるでしょう。
参考文献
Less gym time, same results: Why ‘lowering’ weights is all you need to do
Do you even lift? Lowering weights may be faster route to muscle growth
元論文
Comparison between concentric-only, eccentric-only, and concentric–eccentric resistance training of the elbow flexors for their effects on muscle strength and hypertrophy