もうひとつの「岸田ショック」とは

ニクソンが中国との国境正常化を成し遂げるというエピソードが示唆するように、国家の政策面におけるコペルニクス的転換はそれを実現不可能、あるいは実現する意図が無いと思われていた人物が成し遂げてきたという世の常がある。

上記でも言及したように岸田氏もニクソンのようなレガシーを残す余地がある。ロシアのウクライナ侵攻、中国の台湾への軍事的圧力を受けて日本国民の間では懸念が広がり、防衛力強化を望む声が大きくなっている。国民の過半数以上は防衛費増加を支持し、長らく国是となっていた防衛比GDP2%の壁を取っ払うことを望んでいる。

しかし、いざ日本の防衛を強化する具体的な措置を発表し、実現に動けば、2015年の安保法制への反対運動と類似した強烈な反対運動に政権は直面するであろう。

だが、岸田氏であればそのような反対勢力も抑え込めるであろう。衆参で手にした安定多数、そして自身が持つ「人柄が良く」「無害」なイメージを駆使し、右派的な首相が主導するよりも弱い抵抗で、日本の防衛力を強化していくであろう。また、岸田氏は防衛費を大幅に上げることを実際に言明している。

日本が直面する安全保障環境は予断を許さず、現状維持的な防衛政策も許容できない。今日本国民の生命、財産を守るためには戦後一貫して日本の防衛体制を縛ってきた「一国平和主義的な」束縛から解き放たれ、急進的な政策転換が求められる。だが、そのような大変革は国家の分断を招く恐れがあり、難しい綱渡りが求められる。

それゆえ、そのような大規模な変革を成し遂げて、且つ国家の統合を保つことができるのはそのような変革を最も望んできた層ではない。最も期待されてなかった岸田首相だからこそ、成し遂げる余地があるのである。

これが筆者が考えるもうひとつの「岸田ショック」の中身である。

文・鎌田 慈央/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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