日本で最も愛される魚介類のひとつ・カニ。近年様々なカニが気候変動などの影響で数を減らし採れにくくなっている一方で、明らかに採れやすくなっているカニも存在します。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ベーリング海のカニ資源が激減
かつて我が国の「北洋漁業」における主要漁業であった、アメリカ・ベーリング海周辺のカニ漁。200海里漁業専管水域のルールが普及し、日本の漁船がいなくなったあとも、この地でのカニ漁はアメリカ・アラスカ州における最重要漁業種でした。
しかし、そんなベーリング海のカニ漁がいま大ピンチを迎えています。アラスカ州漁業委員会と北太平洋漁業管理協議会はこのほど、ベーリング海のズワイガニの個体数が、漁を解禁できる基準値に満たなかったと発表。その結果、今季の漁が中止に追い込まれてしまったのです。
ベーリング海におけるズワイガニの個体数は、2018年には約80億匹いたと考えられてるのですが、3年後の2021年にはなんと8分の1である約10億匹にまで激減したのだといいます。
減少の理由と影響
このことに関して、米海洋大気局の専門家は「ズワイガニが激減してしまったのは気候変動によるところが大きいと考えられる」と発表しています。
ズワイガニは水温が2℃以下の冷たい海を好んで生息するカニです。しかしアラスカ周辺では現在、海洋温暖化が進行しています。海水温が上昇すると海面を覆う海氷が解け、水温がさらに上がるという負のスパイラルに陥ります。
結果として、ベーリング海はズワイガニの生息に向かなくなりつつあり、その結果漁獲されるズワイガニの量が自然増加数を上回ってしまい、減少につながったと考えられているのです。
価格高騰の可能性
ベーリング海産のズワイガニは、日本市場でも主力となっているもののひとつ。日本海産など近海物のズワイガニの多くは、乱獲などにより数を減らしており、今回の禁漁によって日本国内でもズワイガニの価格高騰が起こる可能性は大いにあります。ますます手の届かない存在になっていくのかもしれません。
温暖化で「食べやすくなるカニ」も
しかし一方で、温暖化によって我が国での漁獲が増えるとみられるカニもいます。その代表がノコギリガザミ。
ノコギリガザミは「マングローブガニ」とも呼ばれており、マングローブの生えるような温暖な地域の浅い海を好んで生息するカニ。これまで日本では静岡県の浜名湖がほぼ北限に近い産地だとされてきました。
しかし近年、より北の神奈川県相模湾沿岸でも当たり前に見られるようになってきています。なんと東京湾奥で発見される例も。これは温暖化が理由の一つと考えられ、今後はより北の地域でも見られるようになる可能性は大いにあります。
ノコギリガザミの味はズワイガニと比べるとやや繊細さに欠けると言われますが、大きな体には身がぎっしりと詰まっており、またミソはあらゆるカニの中でもトップクラスに美味しいという評価もあります。
現時点ではキロ8000円ほどの高級カニですが、今後水揚げが増えれば価格も下がり、庶民にとっても馴染みやすいカニになるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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