昆虫は無感情で、やるべきことを淡々とこなす生き物に見えますが、そうではありません。

このほど、英ロンドン大学クイーン・メアリー(QMUL)の最新研究により、マルハナバチが「玉転がしをして遊ぶ」様子が初めて記録されたのです。

研究者の報告によると、マルハナバチは、報酬やメリットがないにもかかわらず、何度も玉を転がしたという。

昆虫の「遊び行動」が観察されたのは世界初であり、マルハナバチが、遊びによる純粋な”喜びの感情”を経験していることを示唆します。

研究の詳細は、2022年10月19日付で科学雑誌『Animal Behaviour』に掲載されました。

 

マルハナバチは餌よりも「玉転がし」がお好み?

今回の研究は、同チームが以前に行った実験に端を発しています。

そこでは、マルハナバチ(学名:Bombus terrestris)に玉転がしを学習させ、目的地まで運ぶことができると、報酬として餌が与えられました。

ところがその際、餌を得ることには目もくれず、ただ玉転がしに夢中になっているハチがいたのです。

そこでチームは「ハチも哺乳類や鳥類の子どもと同じように、遊び行動を取るのではないか」と考え、調査を開始。

仮説の検証のために、以下のような実験アリーナを作成しました。

上から見た実験アリーナの模式図
Credit: Hiruni SamadiGalpayage Dona et al., Animal Behaviour(2022)

まず、45匹のマルハナバチの入った巣箱にトンネルを設置し、実験アリーナと接続します。

アリーナは「遊び場(Object area)」と「餌場(Feeding area)」に分かれていますが、その間には何の障害物もなく、ハチは遊び場を素通りして、餌場に向かうことができます。

餌場には、ハチの好物である「ショ糖(S)」「花粉(P)」を設置しました。(ショ糖はチューブで随時、補充される)

さらに、遊び場も真ん中の通路を挟んで、2つのスペースに分かれており、片方には自由に動く木製の玉(9個)が、もう片方には地面に固定されて動かない玉(9個)が置かれています。

この条件下で、45匹のマルハナバチが、どの場所に向かうかを観察しました。

その結果、マルハナバチの約50%がタダで餌を得られる「餌場」に向かわずに、玉のある「遊び場」に留まったのです。

それも、玉を自由に動かせる場所の方を好んでおり、ハチが単に丸い物体だけでなく、動きを好んでいることを示唆しました。

こちらが、実際に玉を転がして遊ぶ映像です。

それぞれのハチが玉を転がす回数を調べたところ、1〜2回しか玉を転がさない個体もいれば、1日に最大44回も転がす個体もいました。

これはハチが、玉を転がす行為を純粋に楽しんでいることを示します。

さらにチームは、マルハナバチが「本当に玉転がしを好んでいるのか」を実証すべく、別の実験を行いました。