消費者物価がじわじわ上昇してきた。天候不良による野菜の急騰はようやく落ち着いてきたものの、食料品や各種サービスの値上げが断続的に続いている。価格を据え置き、容量を減らしたいわゆる「ステルス値上げ」の食料品も増えてきた。内閣府は3月の月例経済報告で消費者物価の表現を前月の「横ばい」から「緩やかに上昇している」に変更している。
賃金より物価やサービス料の上昇が大きく、家計負担は重くなる一方で、需要拡大の兆しはまだ見えない。このままでは需要拡大を伴わない「悪いインフレ」に突入しかねない状況だ。
ビール、ワイン、電気、宅配便…、値上げラッシュ続々と
「原材料調達価格と人件費の上昇で企業努力も限界に達した。値上げ以外に打つ手がない」。4月から牛めし並盛の価格を290円から320円に30円値上げした松屋フーズの担当者はため息をつく。
他の牛丼チェーンが相次いで値上げする中、価格を据え置いてきたが、3月時点で1年前に比べ、調達価格は米国産牛肉が38%、米が8%も上昇した。人手不足からアルバイトの賃金も1~2%上げざるを得ない。相次ぐ物価上昇に持ちこたえられなくなったわけだ。
値上げに踏み切ったのは松屋フーズだけではない。この春は値上げラッシュが続いている。ビールはキリン、サントリー、サッポロの大手3社が4月から飲食店向けを1割程度値上げした。アサヒは既に値上げ済みで、これを受けて居酒屋やレストランで値上げが相次ぐ気配が見える。
納豆はタカノフーズが4月から27年ぶりに主力商品の価格を10~20%引き上げたのに続き、ミツカンが6月から一部品目を10~20%値上げする。コーヒーはネスレ日本が一部製品を4月1日出荷分から6~10%値上げした。ワインは大手5社が一部の商品価格を5%ほど引き上げている。米はコンビニ各社の争奪戦で高騰が続く。
食品以外では、4月から日本たばこ産業が「わかば」や「エコー」など6銘柄を1箱40円値上げしたのをはじめ、電力大手10社が電気料金の一斉値上げに踏み切った。物流では日本郵便が3月から宅配便「ゆうパック」の個人向け基本料金を12%引き上げている。トイレットペーパーなど家庭紙は日本製紙クレシアが4月21日から10%ほど値上げする。
価格は据え置くが、内容量を減らすステルス値上げも増えている。森永乳業がコーヒーに入れる粉末クリーム5品目、フジッコは主力の昆布製品を3月から減量した。雪印メグミルクは5月からチーズ3商品の容量を少なくする。
雪印メグミルクは「酪農家の減少で生乳価格が上昇し、物流費や人件費も上がっている」と理由を説明した。しかし、これだけ値上げが続けば、家計に深刻な打撃となりそうだ。
月例経済報告は物価表現を上向き変更
内閣府が月例経済報告で消費者物価に対する表現を上向き変更した背景には、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数の上昇がある。総務省によると、2015年を100とした2018年2月の生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数は100.8。前月比で0.1%の上昇を示している。
前年同月比で見ても、消費者物価指数は2017年3月が0.1%のマイナスで、4~6月の間、横ばいを続けていたが、7月にプラスへ転じたあと、少しずつプラス幅を広げている。2018年2月は0.5%まで拡大した。
個別の品目を見ても、ビール代6.1%、医療機関の診療代3.5%、宿泊料5.2%、都市ガス代4.5%、ガソリン代10.9%などと値上げがずらり。公共サービスから光熱費、食費、レジャー費まで幅広く値上がりしていることがうかがえる。
茂木敏充経済再生相は記者会見で「基本的にはデフレ脱却に向けた動きが進んでいると考えている」との見方を示したが、内閣府は人手不足を背景とした賃金や原材料価格の上昇などが物価に影響を与えているとみている。
消費拡大見えず、悪いインフレに突入か
インフレには良いものと悪いものがある。良いインフレとは経済が活気づき、需要が供給を上回る形で発生する。価格上昇で企業のもうけが増え、社員の賃金も上がる。家計が潤うことでさらに消費が増える好循環が続く。政府や日本銀行が2%の物価目標にこだわるのはこのためだ。
これに対し、悪いインフレは需要の拡大を伴わないため、価格が上がっても企業のもうけは増えない。家計が潤わないから、物価上昇が打撃となり、消費が鈍る。場合によっては景気が後退して物価だけが上昇するスタグフレーションに陥ることも考えられる。物価上昇が経済の悪循環を招くことになる。
世帯の可処分所得はここ20年ほど伸びていない。名目賃金が大きく伸びない中、物価の上昇で実質賃金が低下している状態だ。日本銀行が2~3月に実施した生活実態アンケートでは、1年前に比べて収入が増えた世帯が12.1%だったのに対し、減った世帯が32.8%に上った。逆に支出は40.6%が増加し、減少した15.4%を大きく上回っている。
働き手の賃金が物価上昇に追いつかず、消費の拡大が見られない以上、悪いインフレに向かう前兆が見えるといえそうだ。この苦境をどう打開するのか、政府や日銀は苦しいかじ取りを強いられている。
文・高田泰(政治ジャーナリスト)/ZUU online
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