いざジムに通うとなった際、現在はSNS でトレーニングの情報を収集する人が多くなった。ただ、ネットの海は玉石混交。正しい情報を見抜く目も必要である。様々な情報が溢れる今、初心者が押さえておくべき基本とは何か。トレーニングをより効果的に進めるための法則を鈴木雅選手が解説。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩
目次
〈第1条〉筋肉ではなく、感覚器を発達させるべし!
〈第2条〉己を知るべし!
〈第1条〉筋肉ではなく、感覚器を発達させるべし!
上級者と初心者とでは「感覚」に差があります。筋肉は脳からの「動け」という指令によって動きます。その指令が出される前段階には、自分の立っている位置だったり、これから持ち上げるものが「重いのか、軽いのか」だったり、それを持ち上げる方向だったり、そういった情報を把握する必要があります。
それらの情報は脳で直接的に受信するのではなく、筋肉や腱、皮膚などに存在する「感覚器」でキャッチされ、そこで情報が統合されて脳に伝わります。トレーニング経験がない方で、「重い!」と言いながらも30回もできてしまう人がいます。そういった方は「重いのか、軽いのか」という情報をキャッチする感覚器が鈍いということになります。
感覚器が鈍いままでは、筋肉は正しく動きません。トレーニングを始めるならば、まずは「感覚器」を活性化させなければいけません。感覚器は使えば使うほど発達していきます。そのためには「身体(筋肉)をたくさん動かす」「筋肉を動かすための正しいフォームを覚える」ことが大切です。その2つをどういったトレーニングで養っていけばいいのか。まずはそこから解説します。
同じ部位を高頻度で刺激する
「初心者はボディビルダーのように分割をしないで、全身メニューから始めるべき」とよく言いますが、これはその通りです。1回で全身をトレーニングするメニューを組んで、その頻度を多くします。1週間に3回ほど同じ部位を刺激するのがよいかと思います。「どうしてもジムに3回もいく時間が取れない」という人は、2回はジム、1回は自宅で筋肉を動かす練習をしましょう。
これがボディビルダーのような5分割にして1週間に各部位1回のトレーニングでは、その部位が使われるのは1週間に1回のみです。それでは感覚器はなかなか発達しません。トレーニングを始めて間もないうちは、同じ部位を高頻度で刺激してあげます。
分割を入れる目安としては、その筋肉を使っている感覚がある程度掴めるようになってきてからです。だいたいそれまでに最低でも4〜6週間くらいかかります。そこからは徐々に分割を増やして、回復期間を長く取るようにします。
種目をいろいろとやりすぎない
いろんな種目をやりすぎると、動作を覚えられません。メニューを毎回コロコロと変えるのは、良くありません。まずは動作を覚えることが大切です。マシンにも多くのものがありますが、全部のマシンをやろうとはせず、オーソドックスな種目を自分の中でひとつしっかりと決めてやり込みましょう。
コントロールできる重量で高回数を
上級者は筋力アップのためにメインセットの重量を5、6回がぎりぎり挙げられるくらいの重さに設定することがあります。同じことを初心者が行うと、まだ腱や関節が弱いので、強い負荷に身体がついていけません。また、感覚器が未発達なので、対象筋をちゃんと刺激できないということも起こりえます。
フォームが定まっていない段階で重たい重量を扱うとケガにつながりかねません。まずは自分でコントロールできる重量、具体的には10〜15回ほどができる重量を選ぶようにします。
コンパウンド種目を選ぶ
トレーニング種目にはベンチプレス、スクワットなど複数の関節を使うコンパウンド種目(多関節種目、複合関節種目)、レッグカールやアームカールなどアイソレーション種目(単関節種目)があります。まず、初心者は上級者と比べると関節が強くありません。その状態でアイソレーション種目で重量を扱うと、ケガにつながってしまいます。
また、コンパウンド種目には「動作のコーディネートができる」「筋や腱を多く使う」「筋肉を多く使うことによって中枢神経系が活性化する」などのメリットがあります。
中枢神経が活性化すると、ひとつの動作により多くの筋肉を動員できるようになります。トレーニングをやる上での、重さを持つための基礎体力がついてきます。
また、コンパウンド種目は動作が単純でマスターしやすいです。「押す」「引く」「立つ」といった動作が主で、覚えるが難しい回転運動のようなものはありません。動作が単純で、感覚器をちゃんと発達させることができます。初心者こそコンパウンド種目を積極的に取り入れていくべきです。
〈第2条〉己を知るべし!
昔は「この種目をやれば、ここの筋肉がつく」といった指導が多く行われていましたが、そうした時代はもう終わったと思います。例えば、同じベンチプレス、同じスクワット、同じデッドリフトをやったとしても、各個人で動作の違いが出てきます。そこには個人差があるので「この種目をやれば、ここの筋肉がつく」と一概には言えません。
ベンチプレスをやってはいるけど、動作ができない。それでは対象筋は発達しませんし、「動作ができていない」のは、何かしらの原因があるはずです。
なぜベンチプレスの動作ができないのか。そこを紐解くには、自分がどういう動きをしているのか、どの部位の柔軟性が足りないのか、どの関節が可動していないのか、どの関節が安定していないか、などなど、そうしたことを自分で知る必要があります。できていないままその種目を続けていると、その方にとってその種目は非効率なものであり続け、またケガにもつながってしまいます。
自分で解析するのが難しければ、信頼できるトレーナーに見てもらうというのもひとつの有効な手段です。けっこう長きに渡ってこの種目をやっているのに、その割には筋肉が発達していない。また、どうしても対象筋ではない別の筋肉に効いてしまう。そういう場合は、自分の動きを疑ってみてください。
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〈第3条〉「トレーニング」「食事」「休養」はセットで考えるべし!
〈第4条〉SNSの情報はその発信者を見極めるべし!
〈第3条〉「トレーニング」「食事」「休養」はセットで考えるべし!
トレーニングの質を上げるのは「食事」「休養」です。身体を発達させるのも「食事」「休養」です。
ただ、「休養」といっても、ただトレーニングを休めばいいということではありません。規則正しい生活が自律神経の働きを高め、筋肉の成長と回復、トレーニングの質を向上させてくれます。副交感神経を高め、睡眠の質をよくし、筋肉の回復、成長につなげていきましょう。
また、筋肉を作る場所は「食卓」です。ジムにいくらいても、それだけでは筋肉はつきません。
〈第4条〉SNSの情報はその発信者を見極めるべし!
今はSNSからトレーニングの情報を得ている方が多いと思います。そこでは、その情報の発信者がどういった経験をして、どういったトレーニングをやってきたのかが重要です。何を勉強してきた人なのか、どういった経歴の人なのか、まずはそこを見極めましょう。
身体作りはインスタントではありません。そこにはすごくたくさんの要素があり、それらは密接につながり合っています。「〇〇だけやればいい」といったキャッチーなフレーズには、飛びつかないようにしましょう。
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〈第5条〉マネをする前に理論を知るべし!
〈番外編〉世界チャンプは見た!初心者の〝あるある〟ミステイク
〈第5条〉マネをする前に理論を知るべし!
SNSなどにアップされている動画は、主に上級者のトレーニング方法だと思います。上級者はほぼみなさん、分割法を取り入れています。「みんながやっているから」といって、最初から安易にそういった動画をマネしないことです。
また、トレーニングではよく「自分に合った種目」「合わない種目」など、「自分に合う」「合わない」といった表現が用いられます。これは非常に都合のいい言い方で、自分がやりたくない種目も「合わない」という言葉で処理することもできてしまいます。「やりたくない」と感じたなら、そこにも理由はあるはずです。その動作がキツいとか、動作そのものができないとか。そこにも改善の余地はあります。
上級者の方が「自分に合ったやり方がいい」と言っていたとしたら、その言葉にはどういう後ろ盾があるのか、そこをしっかりと理解しないといけません。明確な後ろ盾があってこその「合う」「合わない」です。安易に「自分に合ったものを選ぶ」というのは、最初から逃げ道を作ってしまうようなものです。
そして、正しい情報をインプットしたら、しっかりとアウトプットしていきます。自分でちゃんと経験することがとても重要です。
トレーニングに正解はないと言われますが、各々が目指すべき「正解」は存在します。その「正解」にたどり着くまでのルートが人によって違うのです。そこで逃げてばかりいると、「正解」にたどり着くことができないかもしれません。
〈番外編〉世界チャンプは見た!初心者の〝あるある〟ミステイク
マシンの設定ができていない
「マシンは軌道が決まっているので、その設定ができていないと、主働筋に刺激が入りません。設定がよく分からなければ、トレーナーに聞くようにしましょう。それはネットにはない情報ですから」
効果が半減するやり方をしている
「可動域が狭い、重量をガシャガシャと扱う、などです。それでは期待している効果は得られません。きちんとした可動域で、きちんとした軌道で行えば、重量を下げたところで強度は下がりません」
余計なことをしている
「今よく目にすることでしたら、マシンに腰かけてスマホをいじるなどですね。そうした余計なことはせず、トレーニングはできるだけ集中してやるようにしましょう。『集中する』というのはとても大事で、集中力は『筋肉を意識する』ということに密接に関わってきます。集中せずにダラダラとトレーニングするのは、筋肉の発達を遅くさせてしまいます」
鈴木 雅
1980年12月4日生まれ。福島県出身。身長167cm、体重80kg ~83kg。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2010年からJBBF日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。DMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾”は好評を博している。
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。
提供元・FITNESS LOVE
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