コロナの死亡数の発表の仕方が論争となっています。 問題点を整理してみたいと思います。
第6波と第7波では、「肺炎による直接死よりも、持病が悪化して死亡する間接死が多い」という点には、誰も異論はないと思います。私も前回の解説の前半においては、埼玉医科大学の岡氏の説明を引用して、そのように説明しています。
この間接死は、偶発的な死亡なのか?
もし、死亡した時に偶然コロナウイルスが存在していた場合、 すなわちPCR検査陽性と間接死が無関係であった場合は、死亡統計に影響はでません。何故ならば、寿命で死亡する時期がきた人が死亡したにすぎないからです。例年通りの死亡ということであり、超過死亡は発生しません。
一方、両者に関係があった場合は、偶発的死亡ではないため、超過死亡が生じます。つまり、超過死亡数が公表されれば、両者の関係の有無がはっきりします。超過死亡は解釈が難しい場合もありますが、方向性は見えてくるはずです。7月~8月の超過死亡数は、感染研では10月~11月に発表されます。 その数値を見れば結論がでますので、その発表を待ちたいと思います。
超過死亡、コロナ関連死、インフルエンザ関連死とは何を意味するか?
コロナやインフルエンザが流行しなかった場合と比較して、どれくらい死亡者が増加したかの指標を意味しています。
インフルエンザ関連死は、超過死亡数より推定し、コロナ関連死は徹底的なPCR検査により数値を得ています。超過死亡や関連死には、直接死以外に間接死も多数含まれます。つまり、超過死亡数により、死亡診断書の集計では分からない「感染症が死亡者数の増減に与えた本当の影響」を知ることができるのです。
交通事故で入院中の患者が死亡し、PCR検査でコロナ陽性の場合、死亡とコロナは全く無関係と断言できるのか?
これは、個々の症例により異なります。
即死に近い場合は、無関係と言えます。即死でなかった場合は救命できる可能性があるわけですが、コロナに限らず院内感染が起きると救命率は低下してしまいます。つまり、弱毒のウイルスや細菌でも、交通事故などで体力・免疫力が低下している場合には、 その感染症が致命傷となってしまう場合が有り得るのです。
そのため、病院では院内感染を防ぐために過剰とも言える感染対策を行っています。 したがって、すべての交通事故症例において、コロナが死亡と無関係とは断言はできません。
癌の末期に、コロナに感染して死亡した場合は?
これも、個々の症例で異なります。癌の末期でも、衰弱して数日以内に死亡しそうな場合もあれば、まだ数か月~1年数か月くらい存命可能な場合もあります。前者の場合は無関係と言ってよいと思いますが、後者の場合は無関係とは言えないと私は思います。
後者の場合、家族はコロナで死亡したと感じたとしても不思議ではありません。コロナに感染さえしなければ、まだ数か月程度は生きて孫の顔を見ることができたかもしれないなどと、家族は悲しむわけです。
コロナ死亡数を発表する時に、直接死と間接死に分けて発表するべきという主張に対しては、私は何の異論もありません。
間接死の場合には、間接死A:コロナの関与が高い、間接死B:コロナの関与は軽度、間接死C:ほぼ無関係、などと 区分を設定することができれば更に理想的です。
ただし、個々の症例で、関与の度合いを調べるには、かなりの時間を必要とします。医療が逼迫している現在では、そのようなことをしている時間はないのかもしれません。したがって、関連死として一括集計することは仕方のないことだと思います。ただし、可能な限り、直接死と間接死にわけて集計する方が望ましいのは確かです。ただ、その場合でも、人工呼吸器管理を望まず死亡した時は、どちらに分類するのかという問題は残ります。
なお、今回の論考をもって、行動制限なしを撤回するべきと主張するつもりは全くありません。 私が考えるウィズコロナは、「コロナが、ただの風邪になった」から可能になるわけではなく、「一定限度までのコロナ死亡率を国民が許容した」時に可能になるというものです。
【補足】 Yahoo!ニュースのコメント欄 で、埼玉医科大学の岡氏(感染症専門医)と国立病院機構近畿中央呼吸器センターの倉原氏(呼吸器内科医) が発言しています。参考までに引用しておきます。
岡氏のコメント
コロナの死者だが、7波は軽症中等症から多くが死亡している。コロナは関係していないというがそうではない。交通事故で死亡してたまたまコロナが陽性のような症例は極めて稀。主に高齢者であるが、コロナに感染し、高熱など症状が強く、その影響で心臓や腎臓など元々に弱っていた臓器がさらに悪化したり、食事が取れず脱水になったり、ウイルスではなく細菌性の感染症をコロナで弱り合併して死亡しているのだ。
倉原氏のコメント
最近「重症者にカウントされず死者数が増えるのはおかしい」という意見を耳にしましたが、第7波の新型コロナ患者さんが死亡されるのは主に軽症中等症病床です。その理由は、多くの高齢者は人工呼吸器やエクモ等の装着を希望されないためです。重症病床に転院することはなく、新型コロナの軽症中等症病床で人生の最期を迎えておられます。
倉原氏のコメント
「もうインフルエンザと同等」という意見はオミクロン株以降よく耳にしますが、発熱外来と新型コロナの入院の両方を診ている医療機関では、「初期よりは両肺の肺炎を起こしにくいが、インフルエンザよりやりにくい」と認識されていると思います。個々の症例をみると、確かに若年者層では軽症で終わる人が多いのですが、高齢者や糖尿病などの医学的な弱者を谷底へ突き落とすような事例もよく経験しています。
文・鈴村 泰/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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