栄養成分や賞味期限など、食品に必要な情報は通常パッケージに記載されていますが、パッケージを捨ててしまい賞味期限がわからなくなってしまったという経験は誰にもあることでしょう。
そのため、可能ならば食品自体に情報を付加したいところです。
しかし、食品にタグなど食べられない部品を埋め込みたくはありませんし、食べ物の表面に賞味期限が印字されたお菓子というのもちょっと嫌です。
そこで大阪大学 大学院基礎工学研究科に所属する佐藤宏介氏ら研究チームは、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の支援を受け、食品内部に食べられるデータを埋め込む実験を行い、見事データを読み取ることに成功しました。
今回の手法では、食品に光を当てると2次元コードが浮かび上がるため、電子機器を通してさまざまな情報を入手できます。
研究の詳細は2022年10月17日付けの『JST プレスリリース』にて報告されました。
「クッキーに埋め込まれた食品情報」を必要な時に読み取る
パッケージを捨てた食品の賞味期限が分からずに困ったことがあるかもしれません。
この解決策として、「食品自体に必要情報を印字する」という方法があります。
かといって、「チョコレートソースで賞味期限が印字されたクッキー」を食べたいとは思えません。
訪問客に「賞味期限ギリギリの表記があるお茶菓子」を出すわけにもいかないでしょう。
つまり私たちが求めているのは、食品自体から必要な時だけ情報を入手できる食品タグ技術なのです。
そこで佐藤氏ら研究チームは、食品にデータを埋め込み、必要に応じて浮かび上がらせる技術を開発することにしました。
彼らはフード3Dプリンタを利用して特殊なクッキーを作成しました。
クッキー生地を特定の形に配置したり異なった色の生地を用いたりすることで、2次元コードとして機能する内部構造を作ったのです。
研究チームは、試行錯誤を繰り返すことで、食感や強度に大きな影響を与えない内部構造を確立することに成功。
そして外側全体が生地で覆われるため、焼き上がり後の外見は何の変哲もない四角いクッキーになりました。
では、このクッキーから情報を得たい場合はどうすれば良いのでしょうか?
クッキーの背面から光を照射するのです。
内部構造から生じた2次元コードがクッキーの表面に浮かび上がるので、これを電子機器でスキャンすれば必要な情報が得られます。
また実験では、クッキー以外にも豚肉ミンチを用いたコード形成に成功しました。
この技術を利用すれば、食品自体に製造段階で情報を付加できます。
見た目や味に大きな影響を与えることなく、情報の紛失・偽装を防ぎ、安全性の向上にも貢献できるでしょう。
さらに、この埋め込み技術を利用するなら、調理機器との連携が可能になります。
例えば、インターネットに接続されたコーヒーメーカーがあれば、クッキーから情報を読み取り、このクッキーをより美味しく味わうための適切な温度・濃さのコーヒーを自動で抽出できるかもしれません。
またクッキーに様々なグラフィックスをプロジェクトマッピングで張り付けた「新たな食体験」も可能になるでしょう。
研究チームも、「食品へのデータ埋め込みを使った未来の食体験を色々と想像していただきたい」と語っています。
参考文献
食べられるデータの埋め込みを実現 フード3Dプリンターで食品内部に2次元コードなど ~食品のDXのための新技術~