■コンサートホールを模してつくられた空間
そこは都会の真ん中にあって、まるで時が止まったかのような不思議な空間──。
CLASSICSの看板がかかった重たい扉を開けると、薄暗い店内にはオーケストラの演奏が鳴り響く。木のパーティションと木製のテーブル、赤いビロードの椅子が並ぶ。「どうぞお座りになってください」、奥から声がかかり、気品のある朗らかな優しい笑顔の女主人・鈴木冨美子さんが客を出迎えてくれる。
「ネルケン」の創業は昭和30年(1955)、終戦からわずか10年ばかり。クラシック好きだった、今は亡き鈴木さんのご主人・傳太郎さんが「これからは欧米の音楽や文化が入ってくる時代になる。多くの人に音楽を聴いてもらえる場所を造りたい」と店を開いた。
ネルケンの素晴らしさは、どの席でも音楽が明瞭に聴けるところにある。高い天井から鳴り響く音楽、音に包まれるような感覚はまるで小さなコンサートホールにいるかのようだ。最高の音楽空間をつくりたいと、ご主人がヨーロッパ建築をベースに設計、建築は宮大工による釘を使用しない伝統的な木組みというこだわりだ。
程良い酸味とまろやかな味わいの珈琲を片手に、鈴木さんにレコードの良さについてうかがうと、
「レコードの音は不思議ですね、弦の緊張感、指揮者の間の取り方、ホールの空気の膨らみがそのまま伝わるんです。そこに音がないのに確かに感じられるんです」という言葉が返ってきた。
音楽を聴くための空間なので、自分からは進んでは話しかけないという鈴木さん。その程良い距離感がまた心地良いのだろう。何世代にもわたって通う客や、中には数十年ぶりに店を訪れ、在りし日を懐かしむ客もいるそうだ。
新しい時代の幕開けと共にあったネルケン。およそ70年近く、この地の移り変わりを見守ってきた。日本の黎明期、力強く高揚感あふれる時代に人々を魅了した音色──、ネルケンでは今もそんな懐かしい音に触れることができる。
■店主とっておきの一枚
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番・第3番
デ・ヴィート レーベル/EMI Angel
マダムのお気に入りの一つは、イタリアのヴァイオリニスト、ジョコンダ・デ・ヴィート(1907-1994)が演奏するソナタ。女性とは思えないほど線がしっかりしているのが特徴。
■音響機材
レコードプレーヤー:neu DD1200MK3
アンプ:marantz
スピーカー:Diatone
ネルケン
昭和30年(1955)創業
東京都杉並区高円寺南3-56-7
TEL:03-3311-2637
営業時間:11:00~20:00
定休日:無休
席数:テーブル10席
アクセス:JR「高円寺駅」より徒歩約3分
提供元・男の隠れ家デジタル
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