「香川県方式の海底堆積ごみ回収・処理システム」が導入されるまで

もちろん、香川県でもそう簡単に取り組みがスタートしたわけではなかったそうだ。本取り組みが始まる以前、漁師の網にかかったごみは引き上げるのに手間がかかったり、処理方法がわからなかったりするため、回収せずに海に戻してしまうという現状だった。そんな中、本取り組みがスタートしたきっかけには「100 年先も漁師が安全でおいしい魚を獲って、それをみんなに食べてほしい」と願い、「漁師が天職や!」と言い切る、前向きな海を愛する漁師の気付きと行動があったのだという。

高松市瀬戸内漁業協同組合に所属する底びき網漁師のひとり、西谷明氏は漁で網を上げたときに、ナ イロンの袋の中に入った鯛やヒラメがバタバタと苦しんでいたのを見て、海底でも同じような状況が起こっていると思ったのだという。このきっかけから、漁で網に引っかかったごみを、ごみの日に分別して出していた。しかし、テレビなどの大きなごみの扱いには困ってしまう。困った西谷氏は市や県にごみ収集場所を作ってくれないかと相談したが、当初は逆に不法投棄が増えるとして反対された。以降も自分だけでできる範囲のごみ処理をしていたが、自分だけでは限界があり、再び市や県に相談したところ、県の海ごみ対策をしている部署に繋がった。海底堆積ごみは、長期間漁場に留まる傾向があるため、漁業操業に支障をきたすとともに、水産資源や海域の生態系に悪影響を与える。それらを踏まえた上で、行政内での議論を経て、ごみを集めるコンテナを置いたり、漁師にごみを持ち帰ってもらう袋を配布したりと、一気に話が進んだそう。
実際に進み出してからは、行政が漁業共同協組合を自分たちの足で周り、本取り組み内容や意義を丁寧に説明し、信頼関係を構築しながら、協力を仰いでいったのと同時に、市や町に対しても、“海ごみの多くは生活ごみであり、内陸も含めてみんなが当事者・原因者であることを理解してもらったという。

そして現在では香川県にある34の漁業協同組合のうち21にも及ぶ漁業協同組合の協力を受け、平成25年の開始から令和2年までに、約143トンもの海底堆積ごみを回収した。

もし仮に本システムが導入されていなかったとしたら、その約143トンのごみが海に眠ったままだったかもしれないのだ。そう考えると、もし全国で同じようなごみ回収・処理システムの導入が進めば、かなりの海洋ごみを減らすことに繋がることは間違いないだろう。

「漁業者×行政」で瀬戸内海のごみを回収。全国初の香川県の海底堆積  ごみ回収・処理システムとは
(画像=回収された海底堆積ごみ (香川県提供)、『オーシャナ』より引用)

香川県が目指すもの

香川県では、「人と自然が共生する持続可能な豊かな海」の実現を目指している。そのために、海底堆 積ごみ回収・処理システムに対して、さらに多くの漁業協同組合に協力を仰ぎ、海底堆積ごみの回収をさらに増やしていく努力を継続している。

さらには、海底堆積ごみや海に流れ着いたごみ等を回収することはもちろんだが、ごみの発生を抑制する取り組みにも力を入れているという。実際に、県民を対象とした、山・川・里(まち)・海での体験学習や、海ごみ問題に対する高い意識と知識を持ったリーダーの育成講座の開催など、人材育成に取り組んでおり、海ごみ問題の解決のための取り組みが広がっている。

海に囲まれた海洋大国・日本だからこそ、海は守らなければならない存在。「漁業者×行政」で、一丸となり今の瀬戸内海を未来に繋げていこうという想いで実現したこの取り組みを筆頭に、日本全国にも広がることを願っている。

提供元・oceanα

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