様々な環境の海を持つ我が国では、独特の貝食文化が各地に残っています。その一つ「夜泣き貝」とは一体どんな貝なのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
広島で人気の「夜泣き貝」
秋から冬にかけて水温が下がると、全国各地で様々な貝、とくに巻き貝類が旬を迎えます。このような貝は往々にして「ばい」「つぶ」あるいは「にし」と呼ばれ、市場にズラッと並ぶ様子は壮観です。
二枚貝と比べると巻き貝の食文化は非常に地方性が強く出る傾向があり、特定の地域でのみ珍重されるというものも少なくありません。その代表と呼べるものの一つに、広島で「夜泣き貝」と呼ばれる貝があります。
夜泣き貝はサザエやつぶ貝と比べると大きな貝ではありませんが、縦にかなり細長い形状をしており、きれいな渦を巻いているので売られていてもすぐそれとわかります。
夜泣き貝とは何者か
実は、広島における「夜泣き貝」はいくつかの貝の総称として用いられるものです。代表種は標準和名ナガニシという貝ですが、最近ではよく似ているコナガニシを指す例も多くなっています。ナガニシは広島県内でも漁獲されますが、コナガニシは外洋性が強く他県から輸送されてくるものが多いようです。
これらの「夜泣き貝」はいずれも、金槌などで殻を割って中身を取り出し、刺身など生食されることが多いです。その身は赤くて美しく、臭みは全くなく、甘みが強くてコリコリと心地よい歯ごたえがあります。貝の刺身の中でも屈指の美味しさと言う人もいます。
それなのに他の地域で食べられていないのは、内臓が非常に不味いため。苦味と酸味が強く、もし内臓を除去せずにまるごと調理してしまうと、可食部である筋肉までもが食べられなくなってしまうほど。そのため殻を割って取り出す必要があり、歩留まりが悪くなるため、ほとんどの地域では未利用貝となっているのです。
「夜泣き貝」名前の由来
この夜泣き貝ですが、もっとも気になるのはやはりその名前。標準和名とも関連がなく、このように呼ばれている理由は全く想像できません。
これについてはいくつかの説があるようですが、いずれも「乳児の夜泣き」に由来しているようです。
まず、本場とも言える広島では、古くから乳児の夜泣きの薬としてこの貝が用いられたのだそう。また食用にはされないものの、千葉では乳児が夜泣きをした際にこの貝殻を横においたといいます。
実際に夜泣きに効果があるのかというと正直眉唾なところがあると思われますが、この貝が様々な形で「夜泣きを止める」効果を期待されてきたのは間違いなさそうです。
なお、これは傍証になるかわかりませんが、九州地方では古くから、カタツムリの一種の「キセルガイ」という貝が、同様に「夜泣きに効果がある」として信仰されてきました。子宝祈願にご利益があるという熊本の弓削神社では、御神木に生息するキセルガイを持ち帰り、乳児の枕の下に入れるという文化があったそうです。
このキセルガイは縦に細長くきれいなうずまきをしており、見た目状は夜泣き貝との共通点も多いです。何らかの理由により、このような形状の貝が夜泣きを止めると思われてきた歴史があるのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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