「初めて訪れた場所なのに、以前に来たことがある気がする」とか「そんなはずないのに、昔、同じ状況を経験したことがある」と感じたことがあるでしょう。

これは、デジャヴュ(フランス語で「既に見た」の意)もしくは既視感と呼ばれるもので、一度も体験したことがない状況なのに、以前にどこかで体験したことがあるかのように感じる現象です。

アメリカ・コロラド州立大学(Colorado State University)の認知心理学者アン・クリアリー氏ら研究チームは、デジャヴュが起こりやすい条件を発見しました。

長年謎に包まれていたデジャヴュの解明に近づいたのです。

研究の詳細は、2021年7月20日に出版された専門書『The Déjà Vu Experience』に書かれています。

「デジャヴュ」は超常現象として扱われていた

デジャヴュの原因は長年謎に包まれており、神経学者や哲学者、また作家たちを悩ませてきました。

デジャヴュは、超能力や心霊現象のような「超常現象」として扱われることさえあったのです。

デジャヴュは長年謎に包まれていた
Credit:Canva

この問題にメスを入れたのが、アメリカ・南メソジスト大学(Southern Methodist University)の心理学者アラン・ブラウン氏でした。

彼は2003年の研究で、それまでにデジャヴュに関して書かれた研究論文のすべてを見直したのです。

その結果、論文の多くは、前世や超能力など、超常現象に関係するものだと判明。

しかし中には、超常現象としてではなく、一般人の体験として扱った信頼できる調査もありました。

それらの論文によると、3分の2の人がこれまでにデジャヴュを体験したことがあるようです。

そしてデジャヴュのきっかけとして最も多いのが、「場所・場面」であり、次に多いのが「会話」だと判明しました。

ブラウン氏の研究に触発されたクリアリー氏は、自分でもデジャヴュを解明するための実験を行うことにしました。

デジャヴュの原因の1つは「空間的類似」だった

デジャヴュに関しては、100年前から1つの仮説が立てられています。

それは、「今見ている光景と、思い出してはいないものの脳に記憶されている光景が、空間的に似ているときにデジャヴュが起こる」というもの。

似たようなレイアウトの施設を訪れたことがあるのかも
Credit:Canva

例えば、友人の見舞いに行く途中、病棟のナースステーションを通りかかったとします。

この病院には初めて来たのに、以前に来たことがあるかのような感覚に襲われます。

このデジャヴュの原因は、ナースステーションの家具やカウンター、廊下などの空間的なレイアウトが、1年前に参加した学校行事における校内のレイアウト(受付や看板、廊下など)と同じ配置だったからかもしれません。

その学校行事や校内の様子を思い出すことができない場合、状況に対しての強い既視感だけが生まれるというのです。

クリアリー氏ら研究チームは、この仮説を検証するため、VR(バーチャルリアリティ)を使って、参加者にいくつもの光景を味わってもらい、その中でデジャヴュを感じる条件を探すことにしました。

それぞれのレイアウトは似たものもあれば、全く異なるものもありました。

VRでさまざまな場所を体験し、デジャヴュの条件を探る
Credit:Canva

その結果はクリアリー氏の予想通りでした。

体験したことがあってもそのことを思い出せない場合、それと似たレイアウトの光景を新しく見ると、デジャヴュが起こりやすいと分かったのです。

この結果は、前述の仮説を支持するものとなりました。

デジャヴュの原因の1つは、新しい光景と思い出せない光景の空間的類似だと考えられるのです。

もし「この場所は以前来たことがあるのかも」とデジャヴュを感じることがあれば、それは思い出せないだけで、同じようなレイアウトの場所に行ったことがあるということなのです。

もちろん、デジャヴュの原因には空間的類似だけはなく、もっと多くの要素が関係している可能性があります。

しかしかつては超常的と思われていた現象であっても、徐々にその原理は明らかになっているようです。

参考文献

What is déjà vu? Psychologists are exploring this creepy feeling of having already lived through an experience before

元論文

The Déjà Vu Experience