昨年の東京ボディビル選手権、通称‟ミスター東京”にて3位に輝いた、日本ボディビル史上最強とも言える腹筋を持つ男がいる。その名は三井一訓。三井の腹筋は一言で言うなら「カニの裏」のように、バッキバキに、分厚く、そしてきれいに割れている。しかし、三井自身は腹筋のトレーニングには、大会直前に少しやる程度で、ほとんど取り組んでいない。なのにどうしてすさまじい腹筋を構築することができているのか? その謎に迫った。(IRONMAN2020年12月号より引用)
取材:藤本かずまさ 撮影:t.SAKUMA、中島康介(大会写真)
様々なトレーニングが腹筋にも効いている
――三井選手は東京選手権で徐々に順位を上げてきました。
三井 2017年は9位、2018年は4位、そして2019年は3位になりました。自分の中の感覚では2位の白井(大樹)選手とも、いい勝負ができていたと思います。
――優勝が射程圏内に入ってきました。
三井 昨年の日本選手権が終わった直後から、東京選手権に向けての準備に入りました。2020年という「東京」が世界中から注目される記念すべき年にミスター東京を獲ることを目標に、オフシーズンもあまり(脂肪を)乗せないようにしました。
――しかし、4月に中止が発表されました。
三井 やはり落胆しました。「今年は優勝する」と決めていたので…。でも、年内の大会出場を諦めていたところに、タイミングよくゴールドジムさんが今回のような機会を与えてくださり、このまま調整をしてゴールドジムジャパンカップに出場しようと思いました。
――三井選手はじわじわと評価を上げてきて、今年は“注目選手”の枠に入ってきました。今シーズンは勝負の年、という意識もあったのではないでしょうか。
三井 ありました。私はジャガー佐藤(貴規)さんとも仲良くさせていただいているのですが、佐藤さんにも今この勢いのある状況で頑張れば一気に伸びるとアドバイスをいただきました。私はまだキャリアが浅いので、出られる大会に出ておくべきだと思っていました。
――ゴールドジムジャパンカップでは75㎏以下級にエントリーです。
三井 去年の東京選手権の仕上がり体重が73.8㎏でした。毎年、2㎏ずつ増えているので、今年も2㎏のプラスに成功しているとしたら75.8㎏になるのですが、そこからさらに仕上げたら75㎏を切れるだろうという計算です。今は77㎏くらいです。肩などの細かいストリエレーションがまだ出ておらず、お尻のカットもまだまだなので、ここからあと2㎏は絞れると思います。記念すべき第1回大会なので、オーバーオールも獲りにいくつもりでいます。
――そもそも、なぜボディビルを始めようと思ったのですか。
三井 もともとトレーニングが好きで、中野のゴールドジムに通っていたんです。小沼(敏雄)さん、鈴木(雅)さんといったトップビルダーの方々を間近で見て、ボディビルに興味を持つようになりました。そして、東京オープン選手権を見に行ったときに、普段同じジムでトレーニングしている人たち、またオードリーの春日さんやなかやまきんに君が活躍する姿を見て、僕も同じステージに立ってみたいと思いました。
――そこからトレーニングの取り組み方は?
三井 大きく変わりました。それまでは好きな種目をやるだけだったり、ただ重たいものを挙げればいいという気持ちでやったりしていたんです。でも、ボディビルという競技を理解していくうちに、自分の弱点部位を補強するためのトレーニングを考えるようになりました。小沼さんにもアドバイスをいただくようになり、よりトレーニングを深く追求するようになりました。
――初めて大会に出場した段階で、この競技で上位に行きたいという気持ちがあったのですか。
三井 僕はもともと負けず嫌いな性格なんです。私は2016年の東京オープン75㎏以下級でデビューしたのですが、そのときも絶対に優勝してやるという気持ちで出ていました。でも、その年の75㎏以下級はすごくレベルが高かったんです。そこで刺激をもらって、まずは東京クラス別で絶対に優勝することを目標にしました。
――そして17年に東京クラス別選手権70㎏以下級で優勝しました。キャリアを積むにつれて、分割も変化していったのでしょうか。
三井 2年目まで「脚」は前と後ろを一緒にやっていたのですが、3年目から分けるようにしました。分割は、基本的には6分割です。「胸」「脚の後ろ」「腕」「肩」「脚の前」「背中」です。そして、今年はメインの部位のあとに、3つ前の部位(メインが「肩」の場合は「胸」)の種目をサブとして組み入れています。オフは週に2日、入れています。3日やって1日オフ、2日やって1日オフ、というルーティンです。
――武器である腹筋のトレーニングはやっていないそうですね。
三井 去年のオフシーズンはやっていなくて、大会の2ヵ月前からやるようにしたんです。今年は、腹筋はまだ1回もやっていないです。ただ、胸の日にプルオーバーをやるのですが、そこで腹筋に刺激は入っています。また、脚や背中の日は高重量を扱ってかなり追い込むので、腹圧も使います。それがかなり腹筋に効いているのではないかと思います。
――かつては、腹筋が強いが故に腕脚が細く見えてしまうところが弱点だと言われていました。
三井 特に脚は2年目まで弱かったと思います。脚が強くなれば全国大会に近づけると河野智洋選手に言っていただき、3年目は脚のトレーニングに注力しました。具体的には、筋肉痛が治まったら「脚」の日を前倒しにして実施して、頻度を増やしました。
――現在のトレーニング時間は?
三井 5時間くらいです。仕事が17時半に終わるので、そのあとジムに直行して、18時過ぎから閉館時間(23時15分)までトレーニングをしています。若い人は成長が早いので、筋肉もどんどん大きくなっていくと思うのですが、私は30歳でボディビルを始めました。また、全国大会に出ているような選手は、10年、20年とキャリアを積んだ方が多いです。僕のようにキャリアのない人間が、そういった方々に立ち向かおうと思ったら、10年分、20年分に相当するトレーニングをやり込んでいかないと勝てないと思っています。
――いろいろと種目を付け足していったら、結果的に5時間になったのですか。
三井 そうです。ボディビルを始めた当初は3時間、長くて4時間くらいでした。もともとボリュームがあるほうだとは思いますが、そこからさらに種目が増えていきました。僕は「どっちの種目をやるべきか」と迷った場合、その両方をやるんです。それで増えていったというものあります。
――トレーニング中の栄養補給は、どのようにされているのですか。
三井 BCAA、グルタミン、粉飴、クエン酸、ゴールドジムのアミノコンプレックスをブレンドしたものを飲んでいます。他にもトレーニング前、トレーニング中、トレーニング後にクレアチンを摂っています。
――トレーニングが終わって自宅に戻るのが深夜0時くらいになるかと思います。そこで食事は?
三井 炭水化物も普通に摂ります。減量中でも白米を食べています。量としてはオフのときは400g(レトルトパック2個分)、減量中は300gです。トレーニングを長時間、しかもハードにやっているので、深夜だろうが就寝前だろうが、食べても太るようなことはありません。
――ボディビルダーとしての目標は、どこに置いているのでしょう。
三井 やるからには日本一を狙っています。ボディビルを始めた当初に5年以内にミスター東京、10年以内にミスター日本を獲るという目標を立てたんです。鈴木選手もミスター東京を獲った後、5年をかけてミスター日本を獲るという「5カ年計画」を立てたそうです。それを模倣しました。目標を高く設定すると、そこを目指してやらざるを得なくなりますから。
――三井選手は棚橋弘至選手やレイザーラモンRGさんなどを輩出した立命館大学プロレス同好会の出身だそうですね。学生時代にプロレスラーになりたいとは?
三井 思っていた時期もありますが、私は身長が低かったですし、またプロレス業界が冷え込んでいた時代でもあったので、将来のことを考えて就職しました。今はIT系の仕事をしています。
――同じ時期にプロレス同好会に所属していたメンバーからプロに進んだ人もいます。俺もボディビルで名を上げたい、という思いもあったのでしょうか。
三井 プロになって活躍している仲間の姿を見るのは、すごくうれしいです。プロでデビューした後輩の応援に会場に行ったこともあります。だから、私もボディビルという競技で頑張っている姿はサークルの仲間たちに見てもらって、何かいい影響を与えられればいいなと思っています。
――ボディビルでライバル視している選手は?
三井 僕より上位にいる選手全員なのですが、特に意識しているのは昨年の東京選手権2位の白井選手です。僕と白井選手、どちらがミスター東京を獲るかという状況になってきたと思うので、負けたくありません。また、同い年の嶋田慶太選手。嶋田選手は西日本、僕は東日本という立場もあって、私から一方的ですが意識をしています。昨年、ミスター東京を獲った相澤隼人選手にも、時間をかけてでも追いついて、そして追い越したいと思っています。
三井一訓(みい・かずのり)
1985年10月12日生まれ。岐阜県岐阜市揖斐郡大野町出身。身長170㎝体重75kg(オン)80kg(オフ)。2016年、東京オープン選手権75kg級で大会デビュー。
主な戦績:
2017年東京クラス別選手権70kg以下級優勝/東京選手権9位
2018年東京クラス別選手権75kg以下級優勝/東京選手権4位
2019年東京選手権3位/日本クラス別選手権75kg 以下級6位/ジャパンオープン選手権8位
2020年ゴールドジムジャパンカップ75㎏以下級6位
2021年ジャパンオープン選手権6位/東京選手権3位
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。
提供元・FITNESS LOVE
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