地球の衛星である「月」は、予想以上に短時間で形成されたようです。

天文学者らは、1970年代半ばから、月の誕生について「ジャイアント・インパクト説」を唱えるようになりました。

これは約46億年ほど前に、火星サイズの原始惑星「テイア(Theia)」が地球に衝突し、そこで生じた破片から長い時間をかけてゆっくりと月が形成されたという仮説です。

しかし今回、英ダラム大学(Durham University)がスーパーコンピュータを用いた高解像度シミュレーションを行ったところ、月の形成はゆっくりしたものではなく、衝突からわずか数時間のうちに終わった可能性が示されました。

研究の詳細は、2022年10月4日付で科学雑誌『Astrophysical Journal Letters』に掲載されています。

月はどのように作られたのか?

天文学者らは、1969年7月のアポロ11号ミッションの折に、月の誕生に関する最初の手がかりを得ました。

約21.6キロの月の岩石と塵のサンプルが、地球に持ち帰られたのです。

そのサンプルは約45億年前のものであり、月の誕生は太陽系が形成されてから、およそ1億5000万年後だったと推定されました。

加えて、月と地球の岩石組成が似ていること、地球の自転と月の公転の向きが似ていること、月のサンプルに揮発性物質や軽元素がほぼ含まれていないこと(それらが気化してしまうほどの極高温下で、月が形成されたことを示唆する)が判明。

そこから、初期の地球に原始惑星がぶつかったという「ジャイアント・インパクト説」が浮上しました。

この仮説上の原始惑星は、ギリシア神話の女神テイア(月の女神セレネの母)にちなんで、「テイア(Theia)」と名付けられています。

太平洋にはジャイアントインパクトを引き起こした「原始惑星テイア」が埋もれている可能性がある

一方で、地球とテイアの衝突がどのように起こり、その後、どんなプロセスを踏んだかは正確にわかっていません。

ジャイアント・インパクトの想像図
Credit: ja.wikipedia

従来の仮説では、テイアが地球に衝突した際、その衝撃でテイアは無数の破片に砕け、地球の周りを公転しながら数百万年かけて冷却され、月ができたといわれています。

しかし、もし月の大部分がテイアを原料としているのなら、現在の月の組成の多くが地球とよく似ているのか、説明がつきません。

これについて一部の専門家は、テイアとの衝突によって地球の大部分が破壊され、その破片の多くが月の形成に使われたのではないか、と考えます。

ところが、地球が大きく崩壊した場合、現在の月と地球とは、まったく異なる軌道を描くことになるという。

これらの疑問に答えることを目的として、研究チームは今回のシミュレーションを行いました。