みなさんはバルクアップについて、様々な考え方や取り組み方を持っているはず。人それぞれ千差万別な方法をもとに、試行錯誤などした人もいるだろう。今回は、現在の基礎を築いた「デカくなった時期」の食事について、ボディビル世界王者・鈴木雅選手に語ってもらった。(IRONMAN2015年12月号から引用)

聞き手:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩

「若くて伸びる時期にたくさん食べることで差がつきやすくなります」

ーーこれまでの人生でもっとも体が大きくなった時期はいつなのでしょうか。
鈴木 本格的にトレーニングを始めたのは21歳からで、そのときす。高校では野球部だったので、そのころも野球の補強でトレーニングはやってはいました。高校1年生のときの体重は45㎏くらいしかなかったと思います。そこから60㎏まで増えました。野球部を引退したあと、トレーニングをやらなくなって、大学に進学するころには50㎏くらいまで落ちていました。そこからトレーニングを再開して、1年間で75㎏くらいまで増えました。
ーー当時の食事はどのようなものだったのでしょう。
鈴木 大学生でお金があまりなかったので、タンパク源はサバ缶、鶏の胸肉が中心でした。あとはご飯。当時は3合炊きの電子ジャーしか持っていなかったんですが、体を大きくしたかったので、6合炊きのものを購入しました。合わせて9合炊いて、それを1日で食べていました。そうするとだんだん茶碗によそうのが面倒臭くなってきて、ジャーからそのまま食べるようになっていました(笑)。けっこうそういうボディビルダーは多いと思います。
また、当時は知識があまりなかったので、本に書いてあることをそのまま実践していました。初めて見たトレーニングDVDがマッスル北村さんの「世紀末バルクアップ」だったんです。北村さんがミキサーに卵を10個入れて、それを飲んでいた。体を大きくしたい人は、こういう食事を普通に取っているんだなあと(苦笑)。さすがに卵をミキサーにかけて飲むようなことはしなかったですが(苦笑)、卵1ダース分をスクランブルエッグにして食べていました。
ーーマッスル北村さんといえば、消化吸収をするために「強力わかもと」を飲んでいたというエピソードがありますが、鈴木選手も飲んでいましたか?
鈴木 私はエビオスでした。今も飲んでいますよ。昔は「わかもと」を飲んでいた人のほうが多かったと思います。
ーー他にも当時の増量定番メニューはありますか?

「筋肉をつけるには、まず食べること」ボディビル世界王者のバルクアップ成功談
(画像=『FITNESS LOVE』より引用)

鈴木 プロテインではなく固形物を食べたほうが体が大きくなるかなと思って、ハンバーガーを食べていました。マクドナルドのキャンペーンでハンバーガーが60円で買えた時期があったんです。その期間は、プロテインはトレーニング後だけにして、間食にハンバーガーをひたすら食べていました。
それと、1日で8000キロカロリー以上取ることを課していました。だいたいのカロリー計算はやっていたんですが、4000取っても5000取っても体重が増えなくて、6000くらい取って少し増えてきたんです。8000ほど取らないと目に見えて増えてきませんでした。
ーー鈴木選手はシーズン中でも5000キロカロリー取るんですよね? その摂取カロリーで仕上げられるというのは才能です。「食べる」ことにも才能は必要ですよね。
鈴木 そう思います。今、それほど食べられなくなって感じるのは、体がそれほど大きくならないということです。ボディビルに関して言えるのは、トレーニングを始めた時期に扱う重量がものすごく伸びて、そのあと頭打ちになるんです。若い時期は、体重が増加するにつれて使用重量が伸びてくる。そして使用重量が増加するにつれて、こんどは筋肉がついてくる。若くて伸びる時期にたくさん食べることで、グンと飛躍するんです。今の僕が当時と同じことをやるのは、もうキツいと思います。若い時期の助走期間とでも言いますか、その時期をどう過ごすかで差がつきやすくなります。
ーー若いころにしかできないことの一つに「たくさん食べる」こともあるように思えます。
鈴木 若手のボディビルダーでも、早く結果を求めようとして絞ってしまう人が多いんです。「甘くてもいいからコンテストに出てやる!」という人は少なくなりました。昔は甘いまま大会に出てきて、「この選手が絞ったらすごいことになるんじゃないか」という期待を抱かせる人も多かった。それが競技的にいいかどうかは置いておいて、絞ることは年齢を重ねてからでもできます。若いうちはとにかく食べて、筋肉をできるだけつけておいたほうがいいです。
トレーニングに関しても、後先を考えずにとにかく一生懸命やるという人がいなくなったように思えます。パワーラックから離れないでひたすらバーベルにしがみついてトレーニングしているような若い人を、最近ではあまり見かけなくなりました。私くらいの世代までは、けっこうそういう人がいたんです。
「だれよりも筋肉をつけてやるんだ!」という気持ちで、いっぱい食べてトレーニングするという気持ちは大切です。体づくりで重要なことは、やはりノーペイン・ノーゲインなんです。痛みがきて、修復して、回復して筋肉がついていく。そこで必要になってくるのが食事なんです。食事とトレーニングは同じくらい重要です。
昔は「これを食べてこんなトレーニングしたらでかくなるんじゃないか」とか、夢がふくらみましたよね。田代(誠)さんがよく「ファンタジーを求めて」という表現をされますが、若いころは心のどこかで奇跡を信じることも必要です。
ーー新人選手やデビューを目指している若者たちへのメッセージをお願いします。
鈴木 ルールを破ることも大切だと思います。これは法を犯すという意味ではなく、知識や理論にとらわれすぎず、それを思い切って破ってみるということです。


鈴木 雅(すずき・まさし)
1980年12月4日生まれ。福島県出身。身長167cm、体重80kg ~83kg。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2010年からJBBF日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。DMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾”は好評を博している。


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。

提供元・FITNESS LOVE

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