スポ―ツアスリートが競技パフォーマンスを上げるためのベンチプレスと筋量を増やすためののベンチプレスには違いがある。ではその違いについて井上先生に聞いてみた。
文:井上大輔 <NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会>
力まずに力を発揮する
人間の体は対角線上に大きな力を発揮することができるような構造になっています。なぜなら筋肉を包む筋膜が対角に走行しているからです。野球のピッチングもテニスやバレーボールのサーブも、対角に力を発揮していることは一目瞭然だと言えます。ウエイトトレーニングのときは「筋肉を意識して!」と指導することが多いと思いますが、実際のところ、脳は筋肉に指令を出すのが苦手で、肘を曲げるなど「動きに対する指令」を出すのが得意であることが脳科学で解明されています。
従って「大胸筋を意識して!」という命令を出すと、脳が混乱して筋肉が必要以上に収縮し、いわゆる「力み動作」につながってしまうのです。スポーツは通常リラックスして行うので、「リラックス=スピード」「力み=ブレーキ」だと言えます。海外のスポーツ選手が通っているジムには鏡がありません。なぜなら試合のときに鏡がないからです。鏡がなくても自身の体の状態、ここでは「姿勢や関節の角度、フォーム」を再現できるようにすることが大切だからです。このような感覚を「固有受容感覚」といいます。
スポーツや日常で大切なのは「筋肉を使う」ことでなく「固有受容感覚を高める」ことだと言えます。話が少しそれましたが、機能的な体をつくるには「筋肉を意識する」のではなく「体の動きに注意する」ことが大切なのと同時に、筋肉でなく筋膜の走行をうまく利用して必要以上に力まず力を発揮することです。
今回のワンハンドダンベルベンチプレスも同様です。ベンチプレスは大胸筋のトレーニングですが、大胸筋でなく「姿勢やフォーム」に注意を配ることが大切です。また、不安定な姿勢で対角に力が発揮されるため、ただ筋肉を利用するのでなく筋膜を利用し、バランスを取りながら行うことが必要です。ウエイトトレーニングで「力むな」というのは、矛盾しているように感じるかもしれませんが、動作が遂行できるだけの必要最低限の筋力発揮で行うことが大切だということです。それでは解説していきましょう。
ワンハンドダンベルベンチプレスの効用
・体幹の安定性の向上
・肩甲帯の安定性の向上
・大胸筋の強化
ワンハンドダンベルベンチプレスの行い方
片方の手にダンベルを持ち、ベンチにあおむけになります。そのまま両足と体幹でバランスを保ちながらベンチプレスを行います。体幹にかかる回旋の負荷はダンベルが体から遠い位置にあるときは負荷が低く(写真1 −1)、体に近づくほど負荷が高くなります(写真1 −2)。
エクササイズ中は、体幹に対し常に変動的な回旋の負荷がかかります。
リグレッション(原点回帰)とプログレッション(エクササイズの発展)
◎ワンハンドダンベルベンチプレスの リグレッション
●オルタネイティングダンベルベンチプレス(写真2−1)
両手にダンベルを持ち、ベンチにあおむけに寝た状態で、ダンベルを交互に挙上します。この種目は動かしていない方のダンベルが「カウンターウエイト」になるため、バランスが取りやすくなります。
◎ワンハンドダンベルベンチプレスのプログレッション
体幹を半分だけ固定した状態でのワンハンドダンベルベンチプレス(写真2−2)
●体幹の半分をベンチからはみ出した状態でエクササイズを行います。この状態で行うと、体幹の不安定度がかなり増すため、体幹に負荷がかかります。くれぐれもベンチから落下しないように慎重に行ってください。
これらのエクササイズは決して胸筋の筋量を増すことを目的とした種目ではありません。あくまで、体幹のトレーニングの一環として認識した方が良いと思います。筋量を増したい人は通常のベンチプレスを行うことを勧めます。エクササイズは目的により、使い分けることが大切なのです。
井上 大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/ NSCACSCS/NPO 法人JFTA 理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF 全日本選手権 第6位。
NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会 TEL:078-707-3111
提供元・FITNESS LOVE
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