独ハイデルベルク大学(Heidelberg University)の分子工学研究所は、このほど、3Dプリントの先を行く「4Dプリント」の新たな作品を発表しました。

この場合の「4D」とは、3Dプリントで作成された物体が時間の経過とともに、その形状やサイズ、特性を変化させる能力のことを指します。

今回、研究チームが作ったマイクロスケールの構造体は、時間が経つにつれて、サイズが大きくなり、材質も硬化するとのこと。

さらに、形状記憶ポリマーを使っているため、元の形に戻ることも可能です。

4Dプリント技術は、ロボット工学や生物医学での応用が期待されています。

研究の詳細は、2022年9月22日付で科学雑誌『Advanced Functional Materials』に掲載されました。

外部刺激に反応して、形やサイズが変わる!

4Dプリントには、外部環境の変化に反応して、サイズや材質を変える素材が使われます。

その中で最も代表的なのが「形状記憶ポリマー」です。

形状記憶ポリマーは、外部の温度変化に応じて、変形したり元の形に戻ることができ、今回の研究にも用いられています。

(この他にも、磁力によって変形できる「磁性体」や水分によって膨張する「樹脂」などがある)

本研究チームは、今年2月に、形状記憶ポリマーを使った箱型のマイクロアーキテクチャを発表していました。

これは、周囲の熱に反応するとフタが閉まり、元の環境に戻ると、再びフタが開く仕組みになっています。

熱に反応して、変形したり、フタが開閉するマイクロボックス
Credit: Eva Blasco et al., Advanced Functional Materials (2022)

この小さな構造体は、低い活性化温度(たとえば、人の体温程度)で形状記憶を発揮できるので、生体への応用に非常に向いています。

具体的には、ボックス型のマイクロアーキテクチャの中に薬剤を入れてフタをし、人体に投与。

目的の部位まで到達すると、熱に反応してフタが開き、薬剤を届けるといった使い方が考えられます。

あるいは、臨機応変に形を変えることで、体内の狭い通路も通り抜けられるでしょう。

研究チームは今回、形状記憶ポリマーを用いて、タコやヤモリ、ヒマワリなど、より”生命に近い”マイクロアーキテクチャを作り出すことに成功しました。

新たに作成した「ヒマワリ、タコ、ヤモリ」のマイクロアーキテクチャ
Credit: Eva Blasco et al., Advanced Functional Materials (2022)

研究主任のエヴァ・ブラスコ(Eva Blasco)氏は、これらの材料について「動的な化学結合(dynamic chemical bonds)をベースにしている」と説明します。

一般的な材料の結合とは、原子間における電子の共有をベースとした「強固な結合」として知られます。

このような強固な結合を再び切り離すには、かなりの高温条件や相当量の触媒下など、非常に大きなエネルギーを必要とします。

これは、現実のあらゆる場所で安定した形を維持できるメリットがある一方で、柔軟な形状変化ができないことを意味します。

しかし、それを可能にするのが、外的な刺激によって結合を切り離したり、再結合できる「形状記憶ポリマー」なのです。

今回のマイクロアーキテクチャは、プリント後から約4時間後には、サイズが元の8倍まで大きくなり、さらに、大方の形状を維持したまま硬質化したといいます。

上の画像は、プリント後から2時間後と4時間後を示しており、大きさや形状が変わっているのがわかります。

従来の3Dプリント用材料では、このような機能は得られません。

外部刺激によって柔軟に形質を変える4Dプリント技術は、今後、マイクロロボットや医療分野を含む多くの分野で、幅広い応用が期待されるでしょう。

参考文献

Manufacturing microscopic octopuses with a 3D printer

元論文

Covalent Adaptable Microstructures via Combining Two-Photon Laser Printing and Alkoxyamine Chemistry: Toward Living 3D Microstructures