紫外線の一種「Far-UVC(遠紫外線)」が、室内の空気中にただよう細菌・ウイルスを死滅させるのに有効であることが、新たな研究で示されました。

実験では、天井灯から放射される遠紫外線により、5分以内に室内の細菌を98%以上減少させたとのこと。

特筆すべきは、すでに殺菌に使われている従来の紫外線と違い、人体にダメージを与えないことです。

これにより、人の安全を保ちつつ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含む、新たなパンデミックの回避に役立つかもしれません。

研究の詳細は、米コロンビア大学(Columbia University)、英セント・アンドルーズ大学(University of St. Andrews)らにより、2022年3月23日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次
人体にノーダメージの「遠紫外線(Far-UVC)」とは?
たった5分で98%の細菌を死滅させる

人体にノーダメージの「遠紫外線(Far-UVC)」とは?

コロナ対策の新たな武器! 人体に無害な「遠紫外線ライト」が5分で室内の細菌を98%不活性化!
(画像=病院のスリッパの除菌など、紫外線を使った除菌システムは珍しくない / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

殺菌を目的に紫外線を利用することは、とりたてて新しい技術ではありません。

キーボードやスリッパの除菌など、現在でもあらゆるシーンで使われています。

しかし一方で、殺菌に使われる紫外線(UVC)は、眼疾患や皮膚がんを引き起こすリスクがあり、人のいない場所で使用する必要がありました。

これに対し、新たな「遠紫外線(Far-UVC)」は、人体を傷つけることがありません。

そもそも光は、波長の違いによって、さまざまな種類に分けられます。

このうち、私たちの目に見えるものが「可視光線」ですが、これより波長の短いものが「紫外線」です。

コロナ対策の新たな武器! 人体に無害な「遠紫外線ライト」が5分で室内の細菌を98%不活性化!
(画像=波長の違いによる光の種類 / Credit: JCiA(日本化粧品工業連合会)より、『ナゾロジー』より引用)

紫外線は、波長の長い方からUVA、UVB、UVCに分類されます。

この中で最も殺菌力の強いのがUVCであり、長い間、病院や工場、浄水場などの施設で利用されてきました。

しかし、人体へのダメージが大きいのも事実でした。

ところが、UVCの範囲内でとくに波長の短い「遠紫外線(Far-UVC)」なら、皮膚がんなどの発症を起こさず人体に対して無害であると報告されています。

波長は207~222ナノメートルを指し、生体内のごく短い距離しか通過できないため、皮膚表面の細胞や、目を覆う涙の層すら通り抜けられません。このためDNAを損傷させてがんを発症させる恐れがないのです。

それでいて、表面についた細菌やウイルスの不活性化には効果的です。

研究チームは今回、遠紫外線(Far-UVC)」が室内を浮遊する細菌・ウイルスに対し、どれほどの殺菌効果をもつか実験しました。

たった5分で98%の細菌を死滅させる

遠紫外線(Far-UVC)の殺菌効果は、ここ10年の研究で、徐々に明らかにされつつあります。

しかし、遠紫外線を用いたこれまでの実験はどれも小規模で、実生活の環境を模した部屋では行われていませんでした。

そこで今回は、平均的な家庭やオフィスの一室に相当する「縦4.2m×横3.36m×高さ2.26m」の部屋で実験を開始。

実験中は、噴霧器から黄色ブドウ球菌のエアロゾルミストを室内に連続的に放出しました。

コロナ対策の新たな武器! 人体に無害な「遠紫外線ライト」が5分で室内の細菌を98%不活性化!
(画像=実験室内の模式図 / Credit: David J. Brenner et al., Scientific Reports(2022)、『ナゾロジー』より引用)

黄色ブドウ球菌は、血液や関節、骨、肺、心臓などに深く入り込むと、人体に致命的な影響を与える細菌です。

この菌が選ばれた理由は、新型コロナウイルスよりも遠紫外線に対する感度がわずかに低いからです。

つまり、もし遠紫外線が黄色ブドウ球菌に有効であれば、それより感度の高いコロナウイルスや、その他の細菌およびウイルスにも有効と考えられます。

チームは、室内にただよう黄色ブドウ球菌の濃度が安定したところで、天井灯の紫外線ランプを点灯させました。

コロナ対策の新たな武器! 人体に無害な「遠紫外線ライト」が5分で室内の細菌を98%不活性化!
(画像=遠紫外線の照射範囲 / Credit: David J. Brenner et al., Scientific Reports(2022)、『ナゾロジー』より引用)

アメリカ産業衛生専門家会議(ACGIH)が定める規制値にもとづいた強度で照射した結果、5分以内で室内の黄色ブドウ球菌のなんと98%以上が殺菌されました。

また、追加で菌を噴霧しつづけても、室内の細菌濃度は低レベルで保たれています。

専門家によると、9×9mの室内の空気を清潔に保つには、少なくとも15分ごと(1時間に4回)の換気が必要と言われています。

実用的には、1時間あたり5〜20回の換気がベストとされますが、遠紫外線を用いた今回の結果をこれに換算すると、1時間あたり184回分の換気力に相当するとのことです。

コロナ対策の新たな武器! 人体に無害な「遠紫外線ライト」が5分で室内の細菌を98%不活性化!
(画像=遠紫外線ランプが教室で使われたときのイメージ図 / Credit: University of St Andrews news – New anti-viral light could make indoor settings Covid-safe(2022)、『ナゾロジー』より引用)

まとめ

研究主任の一人で、コロンビア大学・放射線研究センターのデビッド・ブレナー(David Brenner)所長は、次のように話します。

「遠紫外線(Far-UVC)は、室内空気中の微生物の量を急速にほぼゼロにし、室内の空気を基本的に外気と同じくらい安全にします。

また、遠紫外線ランプは、設置が容易かつ低コストで、人々に特別な指示も必要ありません。

この技術を人が集まる場所で使えば、次に起こりうるパンデミックの防止に役立つと期待されます」

コロナ対策の新たな武器! 人体に無害な「遠紫外線ライト」が5分で室内の細菌を98%不活性化!
(画像=空港でも使われる日は来るか? / Credit: University of St Andrews news – New anti-viral light could make indoor settings Covid-safe(2022)、『ナゾロジー』より引用)

私たちは目下のコロナパンデミックに対し、ワクチンの接種をもって対抗しています。

ところが、ウイルス側は次々と変異種を生み出すことで、ワクチンへの耐性を獲得することが可能です。

しかし、紫外線はウイルスを根本から死滅させるため、ワクチンや薬物治療のように耐性をつけることもないと考えられます。

チームは今後、遠紫外線(Far-UVC)がさらに大きな空間(ライブハウスや空港など)でも同様の効果をもつか、研究を進める予定です。


参考文献

New Kind of Ultraviolet Light Safely Kills Airborne Pathogens Indoors, Scientists Say

‘New type of ultraviolet light’ kills 98% of airborne microbes in a room and could help prevent the next pandemic, scientists claim

元論文

Far-UVC (222 nm) efficiently inactivates an airborne pathogen in a room-sized chamber


提供元・ナゾロジー

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