近年、大型の3Dプリンタを使った建設に注目が集まっています。
しかし建物を印刷するためには、現在巨大なクレーンなどの大掛かりな装置が必要になります。
けれど近い将来、ドローンを利用した3Dプリンタによってもっと手軽に建物を印刷することが可能になるかもしれません。
インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)航空学科に所属するミルコ・コーバッチ氏ら研究チームとスイス連邦材料試験研究所(Empa)は、協働しながら3Dプリントで建物を印刷するドローンの群れを開発したのです。
その光景はまるでミツバチたちが巣を作るかのようです。
研究の詳細は、2022年9月21日付の科学誌『Nature』に掲載されました。
ミツバチみたいに協働する「3Dプリント・ドローン」
従来の3Dプリンタ建設には欠点があります。
印刷のためにクレーンなど大型の装置が必要になるため、足場の悪い場所では利用できないのです。
山や被災地での作業も難しいでしょう。
そこで、コーバッチ氏ら研究チームは、ドローンを用いた3Dプリンタ建設を考案しました。
ヒントとなったのはミツバチの巣作りです。
ミツバチは仲間と協働して精巧な巣を作ります。
同様に、3Dプリンタを装備した複数のドローンが、協働して作業に当たればどんな場所にでも建造物を印刷することができるかもしれません。
研究チームが開発したドローンの群れは、飛行しながら3Dプリントする「ビルドローン」と、ビルドローンを監視して次の製造ステップを知らせる品質管理担当の「スキャンドローン」から成り立ちます。
まるで現場監督と作業員のように仕事を分担しながら協働するのです。
3Dプリントに使用されるのは4種類の材料を混ぜたセメント状の混合物です。
これは液体でビルドローンのタンクに積まれており、ノズルから泡状になって発射された後、固化します。
射出された材料が何層も重なることで、立体的な建造物が完成するのです。
概念実証では、ポリウレタンベースの発泡剤を用いた2.05メートルの円柱(72層)と、セメントに似た材料を用いた18cmの円柱(28層)がプリントされました。
それぞれのドローンは自律的に飛行して3Dプリント作業を行えますが、スキャンドローンから得られる情報に基づいて人間が介入することも可能です。
現段階では、ドローンの連携と建設が実験室で実証されたにすぎません。
最終的には、現場での3Dプリントを成功させる必要があるでしょう。
それでもこの新しい取り組みは大きな可能性を秘めています。
高所など、足場や作業スペースが十分に得られない場所でも、ドローンを使って容易に建設・修理できるのです。
また被災地での救援建設など、危険地帯での作業にも向いており、リスクを抑えつつ、大幅なコスト削減も可能だと考えられます。
人間の代わりにドローンが家を建ててくれる未来は、そこまで遠くないのかもしれませんね。
参考文献
A swarm of 3D printing drones for construction and repair元論文
Aerial additive manufacturing with multiple autonomous robots