最も原始的な漁法の一つ「追い込み漁」。主に南西諸島など南の地方で発展してきた漁なのですが、それは一体なぜなのでしょうか。
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徳之島の追い込み漁
鹿児島本土から400kmの南に浮かび、美しい自然と独自の文化を多数保持することで知られる徳之島。
その徳之島で、古くから続く伝統的な漁法である「追い込み漁」を体験するイベントが、小学校高学年生から中学生を対象に開催されました。
このイベントは「徳之島町おもてなし観光課」が主催しているもので、児童や生徒とその保護者が参加。環境・文化に関する説明や生息する危険生物、磯の歩き方などについて解説を聞いた後、実際に海に入り、漁法に精通した地元の人達と一緒に追い込み漁を行いました。
追い込み漁とは?
追い込み漁というと、全国的に有名なものはおそらく「イルカ漁」で用いられるものでしょう。これは沖合で見つけたイルカの群れを、船で沿岸の入江に追い込み、漁獲するというものです。しかし南西諸島各地には、これとは全く別の追い込み漁が存在しています。
人で追い込む
当地の追い込み漁では、追い込むのは船ではなく人。複数人で海中に入り、一斉にバタバタと音を立て、魚を驚かせます。そうして、すでに仕掛けておいた網に追い込んで捕まえるのです。
この追い込み漁は南西諸島ではかなり古い時代から行われている伝統的なもの。海岸の地形や潮の満ち引きなど様々な条件を考慮し、最適な魚の追い込み方を行う必要があるそうで、まさに経験がものをいう漁法だと言えるでしょう。
サンゴ礁の有無が大事
追い込み漁は人手こそ必要になるものの、仕掛けておいた網にみんなで魚を追い込んでいくという原理的には大変シンプルな漁。そのため全国各地で行われてきていそうなものですが、しかし基本的には南西諸島など「南の島」でしか行われていません。
その理由は「サンゴ礁」の有無。サンゴは陽の光がよく届く浅い海域を好む生き物で、サンゴ礁は島の沿岸を取り巻くように輪状に発達し、沖合に天然の防波堤を作り出します。そのためサンゴが生息できる海域では、浜から沖合のサンゴ礁外縁にかけて遠浅の海岸ができます。ここには外海の荒波が届かず、多くの魚たちを育むゆりかごとなるのです。
追い込み漁は、ヒトより泳ぎが得意であるはずの魚を、より動きが鈍いヒトが追い込んでいくというもの。したがって深い場所や流れの早い場所では不可能で、浅瀬が広がり障害物が多く、入江状になっているような狭い場所でしか行うことができません。
そのような場所は全国的には多くありませんが、サンゴ礁のある南の島ではごく当たり前の地形。そのためこの追い込み漁は「サンゴ礁のある」南の島の海でのみ発達してきたのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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