プレインランゲージ(平易言語)に関する国際会議が9月21日に日本で初めて開催された。

コミュニケーションの際には、相手に内容が伝わるように表現しなければならない。しかし、それは単純に子供でも分かる簡単な表現をしようという意味ではない。文書を作成する際には読者を想定し、その読者が理解できるように表現するのが原則である。

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国際会議では企業間での契約書の書き方についての講演があった。日本とカナダの弁護士がともに強調したのは、裁判官に理解できる記述が必要だ、という点である。

日本の民法では相手方に約束することを「約し」と表現している。だから、契約書でも「約し」という言葉が頻繁に使われる。それは、契約書によって何を約束したかを裁判官がすぐに理解できるようにするためだ。英米同様に裁判例を重視するカナダでは、判例で定まった表現はそのまま使うようにするそうだ。

わが国では、民法に定型約款に関する規定が新設された。約款は企業と消費者の間での大量の同種取引を迅速・効率的に行うために作成される。消費者が約款の一部を変更するように求めても退けられる。消費者の利益を一方的に害する契約条項については合意したとはみなさない、つまり契約内容とならないと民法で規定された。それでは誰が消費者の利益を一方的に害する条項だと決めるのか。それは裁判官である。だから約款も長文でむずかしく、消費者には理解しがたい。

ネットで物品を売買したり、ソーシャルメディアに投稿したりしようとすると、最初の最初に利用規約に同意するかどうか聞かれる。大半の消費者は中身を読まずに「同意する」。利用規定も定型約款の一種だから、消費者に一方的に不利な条項は裁判で無効にできる。しかし、だからといって無条件に「同意する」のが正しいだろうか。

ここに平易言語が登場する。約款の主要部分を抽出して、取引を行う前に絶対に理解しなければならないことを、1ページ程度、平易言語で記述して提示するという対応である。それによって消費者の理解が進めばトラブルを減らすことができる。僕のこの提案に日本とカナダの弁護士は賛同してくれた。

それでは、平易言語による主要部分の説明は一種類だけでよいのだろうか。完全な素人向けとセミプロ向けがあってもよいのではないか。人工知能の研究者は、相手に対応して表現のレベルを変える個別最適化も将来は視野に入るとした。

個別最適化ができるようになれば、視覚・聴覚などの障害者への情報提供もよりスムーズになると期待される。イスラム圏から来た訪日客にホテルを案内するだけでなく、近傍のハラル食のレストランや礼拝施設を案内できるようになる。こうして、人工知能技術は、平易言語による情報提供に貢献する。

国際会議の様子はビデオに収録され、有料のアーカイブ配信で視聴できる。国際会議をきっかけに平易言語への理解が生まれるように期待する。