道州制というのは長く薄く議論され続けてきた日本の新しい統治形態の案です。定義というほどのものはないのですが、徳島県のホームページにある「一般的には、現在の都道府県を廃止し、複数の都道府県にまたがる、新たな広域自治体として、『道』または『州』を設置するものです」というのがなんとなくつかめる全体像です。
今はこの道州制についてはほとんど盛り上がりません。理由の一つは岸田総理にあるかもしれません。それは岸田氏が自民党政調会長だった時代の2018年に党内の道州制推進本部を廃止させた本人だからです。
私がふと今更ながら道州制と思ったのはいくつかの理由があります。
- 地方の時代と言いながら地方が大きくならず、東京一極集中のスタンスは変わらない。
- コロナ禍の際に各都道府県と厚労省、専門家などが入り乱れ様々な報道がなされたことで誰が何の権限を持っているのか、非常にわかりにくかったこと
- 官僚が不人気職となり、また若手官僚が続々と退職していることから国家を支える柱そのものがどんどん細くなっていることへの懸念
- 人口減の日本に於いて現状を放置すれば地方はますます超高齢化による疲弊が進むこと
- 大規模災害の際のリスク分散。例えば大震災が起きたとしても一般には日本全土に及ぶわけではなく、特定地域に被害が集中することを考え、事前に都市やインフラなどを分散させることによる対応という発想はあるべき。
- エリアごとの特性を生かす。なんでも東京が標準仕様を決めるのではないということ
最近私は「民主主義とは何か」という本を読み、民主主義の最も古典的形態である古代アテネの話にふと気づかされた気がしたのです。当時のアテネが生み出したポリス国家は日本にふさわしい統治形態ではないかと考えたのです。ポリス国家は小規模の集団(都市と言えるのか当時の人口数からも疑問だが)である一方、その統治については各地にある広場(アゴラ)で住民の多くが議論を聞き、参加し、民意で決めていたとされます。つまり今でいう「全員参加型」統治方法です。故に「ポリス国家」なのです。
日本は細長い国で気候や文化的特性、歴史的背景などが地域ごとに違います。それを東京というセンターが一元的に管理するというやり方は戦後のように全体が一つに向かっていればよいのですが、現在のように成熟化してくるとこれはうまく機能しません。
また選挙をすれば投票率3割といった地方選もある中で何がそこまで選挙をつまらなくさせているのかといえば結局雲の上の話を一般平民にされてもわけわからん、ということなのでしょう。ならば、国家全体と地域ごとの行政は二段構えにして、地方に権限を大幅に譲渡してもよいのではないかと思うのです。
情報開示が進む社会において一般庶民は様々なことを学びつつあります。その中には「選択する権利」が当然あるべきですが、日本はその選択幅が非常に小さいのです。なぜなら均一化を目指したからです。「日本全国どこでも同じ」。これは確かに聞こえはよいのですが、長所短所を打ち消したような気もします。
もちろん反対派の声も十分知っています。その中である地方が謀反を起こしたらどうするのか、という話があります。しかし、それは極論だと思うのです。アメリカやカナダは州への多大なる権限譲渡があります。その中でどこかの州が独立を目指すとか連邦政府を裏切るというような話は今やほとんど聞きません。かつてカナダのケベック州が独立を問うという動きをして住民投票で本当にきわどい戦いになったのですが、「雨降って地固まる」だったような気がします。
江戸時代、三百諸侯といわれ三百近くに実質的に分割統治されていました。それが廃藩置県で47都道府県になったものの戦後は東京主導の一極集中型になったわけです。今、道州制と思ったのはその揺り戻しとでもいえるのかもしれません。
カナダにいて思うのは例えばインフラに使うお金は地元政府が地元民のために使うという親近感と共に「そんなところに橋を架けても誰も渡らないだろう」といった地域の便益を考えた声も届きやすいのです。一方、連邦政府は国家としての基盤を整備し、国体の維持に集中できるので分業が非常に進んでいます。世界第2位の大きさの国家をわずか3500万人の人口で支えられるのはこの効率性なのだと思います。
日本の社会が今後大きく変質化することを考えるとこういう議論は無くしてはいけないと思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月21日の記事より転載させていただきました。
文・岡本 裕明/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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