不安障害は家族間で伝播しやすいことが知られていますが、その傾向は、同性の親子間で強くなるようです。
カナダ・ダルハウジー大学(Dalhousie
University)は、新たな研究で、子どもが不安障害になるリスクは、異性親が不安障害を持つ場合よりも、同性親が不安障害を持つ場合に高くなることを発見しました。
とくに、その傾向は母ー娘間で強く、母親が不安障害の場合、その娘も不安障害になる確率が最も高かったようです。
本研究は、親の不安障害が、遺伝子よりも、子どもが同性親の行動を手本とする「環境因子」によって伝播しやすいことを示しています。
研究の詳細は、2022年7月12日付で医学雑誌『JAMA Network Open』に掲載されました。
目次
「母親」が不安障害を持つ場合、「娘」も同じ症状を発症しやすくなる
不安障害が家族間で伝播することは、以前からよく知られています。
その一方で、それが「遺伝子」によるものなのか、それとも「環境」によるものなのかは不明でした。
もし遺伝子が要因であるなら、不安障害は、それを患う親の性別にかかわりなく、男女どちらの子どもにも同じ割合で遺伝するはずです。
反対に、環境が要因であるなら(この場合の環境とは、子どもが同性親の行動を手本にすることを指す)、不安障害は、母から娘へ、父から息子へという同性間で伝播しやすくなると予想されます。
子どもは、同性親から社会的行動を学習する傾向にあるため、親が不安感情を示し続ければ、それが子どもに伝染する可能性があるのです。
しかし、この「不安障害の伝播」と「親子の性別」との関係は、これまで研究が進んでいませんでした。
そこで研究チームは、カナダ東部・ノバスコシア州在住の家族(とくに気分障害のリスクの高い家族)から収集されたデータセットを調査しました。
このデータは、2013年2月1日から2020年1月31日の間に集められたもので、父親237名、母親221名、子ども398名(女児203名・平均年齢11.1歳、男児195名・平均年齢10.6歳)が参加しています。
チームは、親子の不安障害の有無を調べた上で、同性間と異性間で伝播パターンに違いがあるかを比較分析。
その結果、同性親が不安障害を持つ場合、その子どもたちは、同年代の子どもに比べて、同じ症状を発症するリスクが3倍近く高くなることが判明したのです。
(チームの調べた限り、参加者のうちに、トランスジェンダーや性的少数者の方は含まれていません)
とくにこの傾向は、母ー娘間で強く見られ、母親が不安障害を持つ場合、その娘も不安障害になる確率が高くなったようです。
一方で、父ー息子間ではその傾向は有意でなく、父親が不安障害でも、その息子が不安障害になる確率は高くありませんでした。
しかし、父親が不安障害でない場合、その息子も不安障害にならない確率は非常に高かったとのことです。
この結果を受けて、研究チームは「子どもが同性親の行動を手本にすること(とくに、娘から母親)で、そこから不安感情を受け継いでいる可能性がある」と指摘します。
たとえば、以前の研究で、子どもがスペルテスト(単語を正しく綴る能力の評価)を受けている間、親が不安そうにしていれば、子どもも不安感情をあらわにし、親が落ち着いていれば、子どもも落ち着きを見せることがわかっています。
つまり、不安障害は、子どもが同性親から拾い上げた学習行動である可能性が考えられるのです。
しかし、この詳しい因果関係はまだ解明されておらず、同性間で不安障害が伝播しやすい理由も、仮説の域を出ていません。
研究者は「もし因果関係が確認されれば、親の不安症状を治療することで、子どもへの伝播を予防できるかもしれない」と述べています。
提供元・ナゾロジー
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