共産党の参院選敗因は「党勢衰退」と「防衛力強化反対」
(画像=参院選で議席減の結果に「責任を痛感している」と会見する志位委員長
NHKより、『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

共産党の参院選「敗北」

共産党は今回の参院選で得票数、得票率、獲得議席数が、前回、前々回の参院選に比べて減少した。政党の実力を示す比例代表選での得票数361万票、得票率6.8%であり、選挙区を合わせた獲得議席数も改選議席数6名から4名に減らした。共産党は比例600万票以上獲得を目指していたのであり、明らかに「敗北」と言えよう。

この選挙結果を見ると、党創立100年の歴史を誇る共産党は、れいわ新選組の得票数231万票、得票率4.4%、獲得議席数3名にも迫られていることや、国政選挙初挑戦の「参政党」が共産党の約半分の176万票、得票率3.3%、獲得議席数1名の状況などを考えると、共産党自身の存在意義すら問われよう。

第一の敗因:「党勢衰退」

共産党敗北の第一の原因は「党勢衰退」にあると筆者は考える。近年における共産党の党勢衰退は顕著である。党員数は平成2年(1990年)の約50万人から現在は約27万人に、機関紙「赤旗」発行部数は昭和55年(1980年)の約350万部から現在は約100万部にそれぞれ減少している。そのうえ党員の高齢化が進んでいる。

こうした党勢の衰退が得票数や得票率の低下、獲得議席数の減少をもたらす第一の原因であると筆者は考える。ちなみに、2016年の参院選の得票数は601万票、得票率10.7%、2019年の参院選の得票数は448万票、得票率9.0%、今回の参院選は上記の通り、得票数361万票、得票率6.8%と、国政選挙のたびに減少している。

「党勢衰退」の原因はマルクス「窮乏化法則」の破綻

共産党の「党勢衰退」の最大の原因は、マルクスが主張する「資本主義が発達すればするほど労働者階級は窮乏化する」という「窮乏化法則」が破綻し、共産党が綱領で目指す階級闘争に基づく社会主義革命にとって不可欠な労働者階級の「窮乏化」が起こらず、逆に労働者階級の生活水準や消費水準が向上しているからであると筆者は考える(2019年9月10日掲載「マルクス「資本論」の重大な理論的誤謬」参照)。

周知のとおり、マルクスは、資本主義が発達すれば機械化が進展して産業予備軍(失業者)が増加し労働者階級は窮乏化するから、資本家との階級闘争が激化して、社会主義革命は不可避であると説いた(「資本主義崩壊論」マルクス著「資本論」第1巻向坂逸郎訳951頁~952頁岩波書店)。

しかし、欧米・日本などの先進資本主義諸国では、男女の賃金格差や非正規雇用の増加などの課題はあるが、生産力の発展による持続可能な経済成長で失業率が低下し(2022年完全失業率2.6%総務省統計局調査)、名目賃金も年々上昇し(2022年春闘賃上げ率2.11%連合発表)、年金・医療・介護など社会保障制度も整備され、労働者階級の生活水準及び消費水準は向上している。マイホーム・マイカー・電化製品・海外旅行などは労働者階級の間でも普及している。

このため、欧米・日本などの先進資本主義諸国では「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」(マルクス著「ゴーダ綱領批判」渡辺寛訳131頁。河出書房新社)という共産主義の理想がすでに実現していると言えよう。

すなわち、失業率が低下し、市場では商品が有り余り、いつでもどこでも誰でも手軽に手に入る時代である。企業間の価格競争の激化で商品の価格も比較的安定している。労働者階級の失業・貧困が減少し、生活水準の向上により、労働争議(ストライキ)も激減している(1974年1万1000件、2019年数十件=厚労省労働争議統計)。

このように、欧米・日本などの先進資本主義諸国では労働者階級の生活水準及び消費水準が向上し、社会主義革命に不可欠な労働者階級の「窮乏化」が起こらないため、先進資本主義諸国において、社会主義革命を目指す共産党の党勢が衰退するのは歴史的必然である。「先進国革命」は極めて困難なのである。日本共産党も例外ではない。

そのため、イタリア共産党など、西欧諸国の共産党は共産主義イデオロギー(マルクス・レーニン主義=暴力革命とプロレタリアート独裁)を放棄し、社会民主主義政党として再出発しているのが現状である。イタリア共産党は「左翼民主党」になり、1996年中道左派連合「オリーブの木」と連携し政権を獲得した。

第二の敗因:「防衛力強化反対」

今回のロシアによるウクライナ侵略は、日米安保体制下の日本国民に強い衝撃と危機感や不安感を与えた。とりわけ、核を含む軍拡に邁進する中国による「尖閣有事」「台湾有事」への懸念、核ミサイル開発を進める北朝鮮への懸念などから、どの世論調査を見ても、防衛費の増額に国民の多数が賛成している。

これは、ロシアに侵略されたウクライナの悲劇を見て、国の安全保障をすべて米国のみに全面的に依存せず、「自分の国は自分で守る」必要性すなわち「防衛力(抑止力)」強化の必要性を日本国民自身が自覚したからである。この国民の意思は、今回の参院選で、防衛費のGDP比2%への増額を主張した自民党の「大勝」にも示されていると言えよう。

ところが、共産党は、ロシアによるウクライナ侵略による国民の不安感や危機感を無視し、「防衛力(抑止力)」強化は軍事対軍事の悪循環に陥ると称して、「防衛力(抑止力)」強化に絶対反対である。そして、憲法9条に基づく「平和外交」によって国と国民を守るべきと主張した。この主張は自衛隊の違憲解消と日米安保廃棄を綱領で明記する共産党としては当然の主張といえる。

しかし、自衛隊と日米安保を否定し、侵略を抑止するに足りる「防衛力(抑止力)」を持たずに、「平和外交」だけで国と国民を守れると考える国民は、共産党支持者以外には極めて少数であろう。否、共産党支持者ですら日本国民ならば、不安や疑問を感じるであろう。このように、「防衛力(抑止力)」強化に絶対反対する共産党が、今回の参院選で得票数も得票率も獲得議席数も減少させ「敗北」したのは当然であると言えよう。なぜなら、日本国民の「民意」に反したからである。

しかし、共産党は、今回の選挙結果に示された日本国民の「民意」にも左右されず、今後、さらに中国・北朝鮮の脅威が増大し、実際に「尖閣有事」や「台湾有事」が起こっても、自説を曲げることなく、ひたすら、「防衛力(抑止力)」強化絶対反対と憲法9条による「平和外交」を主張し続けるのであろう。これは、中国や北朝鮮にとっては極めて好都合であろう。要するに、共産党には「平和外交」以外には国と国民を守る具体策がないのである。

文・加藤 成一/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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