ヘビは大きな獲物を丸呑みします。

では、ヘビの種類によって丸呑みできる獲物のサイズはどれほど異なるのでしょうか?

アメリカ・シンシナティ大学(University of Cincinnati)生物科学科に所属するブルース・ジェイン氏ら研究チームは、2種類の大型ヘビの口がどこまで大きく広がるか比較しました。

すると非常に大口を開けられるのはビルマニシキヘビ(学名:Python bivittatus またはPython molurus bivittatus)で、他のヘビと比べて6倍も大きな獲物を食べることができると判明しました。

なぜこのヘビはそこまで大きく口を開くことが可能なのでしょうか?

研究の詳細は、2022年8月25日付の科学誌『Integrative Organismal Biology』に掲載されました。

ヘビが丸呑みできる理由

ヘビの大きく開く口が「丸呑み」を可能しています。

実際、ヘビはその特徴的な顎の構造によって、人間や他の動物よりも大きく口を開けます。

特徴の1つは上顎と下顎をつなぐ骨です。

複数の関節により可動域が広がっているため、他の動物と比べて口を上下に大きく開くことが可能なのです。

CT スキャンしたビルマニシキヘビの頭部
Credit:Bruce Jayne(University of Cincinnati)et al., Integrative Organismal Biology(2022)

そしてもう1つの特徴は、下顎骨にあります。

画像で示されているように、ヘビの下顎骨は左右に独立しています。

この2つの顎骨が伸縮性のある組織で繋がっているため、ヘビは口を上下だけでなく左右にも大きく広げることができるのです。

これらの特徴を考えると、ヘビが丸呑みできる獲物のサイズはヘビの頭の大きさに依存しているように思えます。

ところがジェイン氏らの研究により、同サイズのヘビでも丸呑みできる獲物のサイズは大きく異なると判明しました。

ビルマニシキヘビは下顎骨の間に「超伸縮性」の皮膚をもつ

研究チームは、大型ヘビ2種、ビルマニシキヘビ(学名:Python bivittatus またはPython molurus bivittatus)とミナミオオガシラ(学名:Boiga irregularis)を分析し、丸呑み可能な獲物サイズを比較することにしました。

43匹のビルマニシキヘビと19匹のミナミオオガシラを対象に、安楽死させた直後にそれぞれのヘビの口がどこまで開くか調べたのです。

その結果、ビルマニシキヘビは、ミナミオオガシラの4~6倍も大きく口を広げることが可能だと判明しました。

画像サンプルでは、頭胴長(全長から尾部を除いた長さ:体長もしくはSVLとも表現される)が61cmのビルマニシキヘビが口を縦に22cmも広げています。

また画像内の小さな白い囲みでは、頭胴長40cmのミナミオオガシラが口を縦に5.7cm広げています。

ビルマニシキヘビ(大画像)とミナミオオガシラ(白い囲み)の比較。黒矢印はビルマニシキヘビの下顎骨の先端
Credit:Bruce Jayne(University of Cincinnati)et al., Integrative Organismal Biology(2022)

ではどうして、開口面積にここまでの違いが生じるのでしょうか?

研究チームによると、その秘密は「下顎骨の間の皮膚」にあるのだとか。

ビルマニシキヘビの左右に分かれた下顎骨の間には超伸縮性の皮膚が備わっており、この部分が他のヘビよりも伸びることで、結果的に口をより大きく開けることが可能なのです。

画像の矢印は、下顎骨の先端の位置を示しています。

ビルマニシキヘビの下顎の間の皮膚が、下顎骨を大きく超えて、下に伸びているのが分かりますね。

対照的に、白い囲みのミナミオオガシラでは、下顎の少し下までしか皮膚が伸びていません。

人間は上顎から下顎までの間に食物が入るようになっており、開口面積は顎の可動域に制限されます。

一般的なヘビは顎の可動域を広くしたり、下顎が左右に開いてより大きな開口面積を確保します。

そしてビルマニシキヘビは、この左右に開く下顎骨の間の皮膚が他種よりさらに大きく伸びるようになっており、上顎と下顎の間につくられる開口面積と同じくらいの面積を追加で確保できるのです。

ジェイン氏も、「ビルマニシキヘビの総合開口面積の40%以上は、下顎の間にある皮膚が伸びることでもたらされる」と指摘しています。

では実際にビルマニシキヘビは、ミナミオオガシラと比較して6倍も大きな獲物を食べているのでしょうか?