転職は人生における大きな転換点となります。

では、優良な求人情報はどこから得られるでしょうか?

アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院に所属するシナン・アラル氏ら研究チームは、弱い絆からもたらされた情報が転職を成功させやすいと報告しました。

新しい仕事を探しているなら、親族や友人を頼るよりも、ちょっとした知り合い程度の人に尋ねるべきなのです。

研究の詳細は、2022年9月15日付の科学誌『Science』に掲載されました。

「弱い紐帯の強み」仮説とは?

「つながりの弱い人からは有益な情報がもたらされやすい」という仮説
Credit:Canva

1973年、社会学者マーク・グラノヴェッター氏は「弱い紐帯の強み(よわいちゅうたいのつよみ)」と呼ばれる仮説を発表しました。

これは、新規性の高い価値ある情報は、家族や友人、職場の同僚などといった「つながりの強い人(強い紐帯)」よりも、数回会っただけの人、知り合いの知り合い程度の「つながりの弱い人(弱い紐帯)」からもたらされることが多い、という仮説です。

強い絆で結ばれている人々は、同じ価値観や環境をもつ場合が多く、そこで得られる情報も新規性に欠けるというのです。

対照的に弱い絆で結ばれている人たちは、全く異なった価値観・環境で生活していることが多く、自分の周囲からは到底得られない情報がもたらされる可能性が高いと考えられます。

そして「弱い紐帯の強み」仮説は、発表されて以来、多くの人に支持されてきました。

ネット社会である現代でも「弱い紐帯の強み」仮説は通用する?
Credit:Canva

確かに転職においてもこの理論は当てはまるかもしれません。

私たちが求めているのは、代り映えのしない求人情報ではなく、めったに見られない優良な転職先だからです。

とはいえ近年では、「弱い紐帯の強み」仮説に対して、いくらか疑念も生じているようです。

例えば、2017年のタフツ大学(Tufts University)の研究では、オンラインで友人とのやり取りが増えることで、その友人と一緒に仕事をする可能性が高まると報告されています。

強い絆を深めることで新しい仕事が得られるケースもある、というわけです。

では、インターネット社会である現代においても「弱い紐帯の強み」仮説を信じるべきでしょうか?

この点を明らかにするため、アラル氏ら研究チームは大規模な調査を実施しました。

「比較的弱い絆」が転職を成功に導きやすい

LinkedInのデータを利用した大規模な研究を実施
Credit:Sinan Aral(MIT)et al., Science(2022)

研究チームは、世界最大級のビジネス特化型SNS「LinkedIn」の運営チームと協力し、2000万人以上のユーザーを対象とした5年間にわたる調査を実施しました。

LinkedInのサイトでは、5年間で20億の新しいつながりが生まれ、60万の転職が成功したようです。

そしてチームは、LinkedInの「つながり(FaceBookの”友達”状態)」やユーザー間のダイレクトメッセージから結びつきの強さを判定。

それら結びつきが転職の成功とどのように関係しているのか分析しました。

その結果、全体的として弱い絆の方が強い絆よりも転職につながる可能性が高いと判明しました。

しかし今回の調査では、「弱い紐帯の強み」仮説にいくらか調整を加えたような結果が出ています。

「絆の強さ」と「就職活動の成果」のグラフイメージ。逆U字型になっていた
Credit:Canva

絆の強さと就職活動を分析したグラフは、「逆U字」になっていたのです。

就職活動の成果は、「最弱の絆(非常に薄いつながり)」から「やや弱い絆(あまり交流のない友人レベル)」まで高まっていき、その後「最強の絆(親族や親友など非常に強い絆)」に至るまで徐々に下がっていきました。

また研究チームは、ユーザーが社会ネットワークにおいて弱いつながりを増やすと、その人はより多くの仕事に応募できたり、より多くの仕事を得たりするという関連性も発見しました。

求人情報は「ちょっとした知人」「あまり交流のない友人」から得られやすい
Credit:Canva

これらの結果について、カンザス大学(The University of Kansas)に所属するネットワーク科学者キャメロン・ピアシー氏は、次のように述べて同意を示しています。

「“求職者はやや弱い絆の相手を頼るべき”という結果は、これまでに行われた小規模な研究結果とも合致しています」

最弱の絆で結ばれた人は求職者に関する十分な情報をもっておらず、逆に最強の絆で結ばれた人は求職者の長所と欠点をあまりにも多く知りすぎており、これらが就活には不利に働くというのです。

そして上記のどちらでもないやや弱い絆で結ばれた人は、「求職者とは共通の知人が何人かいるから推薦してもいい」と考えることも多いのだとか。

最弱の絆と最強の絆の間には「採用されやすいスイートスポット」があるのです。

とはいえ、今回明らかになった傾向は、リモートワークが可能な仕事など、デジタル化された職場にのみ適用されます。

ほとんどデジタル化されていない地域密着型の仕事には当てはまらないかもしれません。

現在、転職を考えている方は、今回の傾向を十分に当てはめてみると良いでしょう。

新しい出会いを意識し、弱い絆を増やすのです。

少し交流するだけでも、「ちょっとした知り合い」にまで発展するかもしれません。

そんな彼らが、私たちにとって最高の仕事を紹介してくれるはずです。

参考文献

Looking for a job? Lean more on weak ties than strong relationships

元論文

A causal test of the strength of weak ties