超音波画像診断(エコー診断)は、超音波によって体内の状態をリアルタイムで確認できる方法です。

病院に設置された機器を使って、体内の腫瘍や胎児の様子を観察できるのです。

そして最近、アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科に所属するチョン・ワン氏ら研究チームは、超音波画像診断に必要な機器の一部を「切手サイズのステッカー」にまとめることができました。

将来的には、絆創膏を貼るようなかたちで、手軽に体内の様子を見ることができるかもしれません。

研究の詳細は、2022年7月28日付の科学誌『Science』に掲載されました。

「超音波画像診断」には病院にある専門機器が必要

超音波は体内の臓器に当たるといくらか変化し、跳ね返ってきます。

超音波画像診断では、この「跳ね返ってきた信号」を画像に変換することで、リアルタイムで体内の様子を見ることができます。

超音波画像診断よる「心臓の弁」のリアルタイム映像
Credit:Fruehaufsteher2(Wikipedia)_Medical ultrasound

臓器の動き、血流なども詳しく観察でき、悪性腫瘍や動脈硬化など幅広い病気を発見するのに役立ちます。

放射線を使わないので被ばくの心配がなく、痛みもありません。

その安全性の高さから、胎児の様子を観察するのにも利用されてきました。

ところが、超音波画像診断には病院や診療所に設置されるような専用機器が必要です。

超音波画像診断には専用機器が必要。検査中、患者はほとんど身動きできない
Credit:Canva

診断には、技術者が患者の皮膚に超音波を伝えるためのゼリーを塗った後、「超音波プローブ」と呼ばれる超音波送受信機器をゼリーに押し当てなければいけません。

検査時間は10~20分ほどで済むこともありますが、もっと長時間の検査が必要な場合もあります。

検査が長引けば長引くほど身動きできない患者は疲れてしまい、ゼリーが乾燥したり流れ落ちたりして中断される場合もあるようです。

そこで研究チームは、できるだけ患者の負担を減らせる、新しい超音波診断機器を開発することにしました。

「超音波ステッカー」なら運動中の超音波画像を確認できる

切手サイズの「超音波ステッカー」
Credit:Chonghe Wang(MIT)_MIT engineers develop stickers that can see inside the body(2022)

新しく開発されたのは、ステッカータイプの超音波診断機器です。

この「超音波ステッカー」のサイズは2cm2で、厚さ3mm。切手ほどの大きさしかありません。

硬いトランスデューサ(超音波の送受信や超音波と電気信号の変換を担う)と、柔軟性のある粘着層を組み合わせています。

トランスデューサと粘着層からなる。皮膚に貼りつけることが可能
Credit:Massachusetts Institute of Technology (MIT)(YouTube)_Ultrasound Sticker(2022)

粘着層には、従来のものとは異なった弾力性と伸縮性を備えた「超音波を伝えるゼリー」が含まれており、追加で皮膚にゼリーを塗る必要がありません。

「ゼリーを塗ってプローブを押し当て続ける」作業がなくなり、「超音波ステッカーを貼るだけ」になったのです。

超音波ステッカーなら、ゼリーやプローブが必要ない
Credit:Massachusetts Institute of Technology (MIT)(YouTube)_Ultrasound Sticker(2022)

実験では、ステッカーが被験者の首や胸、腹、腕などに貼られ、最長48時間も鮮明な画像を映し続けることに成功しました。

しかもその間、被験者は座ったり立ったりするだけでなく、ジョギングやサイクリング、ウエイトリフティングなども行えました。

超音波ステッカーを使えば、運動時の体内の様子を安全に、リアルタイムで観察できるのです。

筋肉の状態を48時間観察することに成功
Credit:Chonghe Wang(MIT)et al., Science(2022)

実際、心臓や血管が運動によって変化する様子、ジュースを飲んで胃が膨らむ様子、重い物体を持ち上げたときに筋肉がわずかに損傷する様子などを確認できました。

研究チームは、このステッカーを利用して、「運動によって筋肉が酷使される前の状態を画像でとらえ、筋肉痛が生じる前に運動を止めさせることもできるかもしれない」と述べています。

ところが現段階では、画像を観察するためには、ステッカーを「画像に変換する機器やモニター」に接続しなければいけません。

「長時間検査の負担軽減」や「運動中の体内観察」は可能になりましたが、結局は専用設備のある病院を訪れなければいけないのです。

しかしチームは現在、超音波ステッカーのワイヤレス化と画像処理できるAIアルゴリズムの開発に取り組んでいます。

将来的には、薬局で絆創膏を買うかのように超音波ステッカーを入手し、「スマホと通信させて体内画像を確認する」ことも可能かもしれません。

参考文献

MIT engineers develop stickers that can see inside the body

元論文

Bioadhesive ultrasound for long-term continuous imaging of diverse organs