前回の連載では、山火事理論を用いてブースター接種の効果を評価しましたが、年齢に関係なく一定の接種率を仮定した解析でした。今回は実際の年齢別の接種率を考慮したブースター接種の効果の評価です。

結論は、均一接種率(全年齢層61%)のほうが、高齢者優先接種(60歳以上85.0%、60歳以下47.8%)の場合より、全てにおいて抑制効果が大きく、全陽性者で259万人減、全死亡者で1100人減、60歳以上の高齢者だけ比較しても、陽性者で17万人減、死亡者で1000人減の抑制効果の増加が見られたというものです。

この連載で用いているモンテカルロシミュレーションのモデルでは、年齢については60歳以上の高齢者と60歳以下の若年層の2群に分けて解析していますので、早速計算してみました。

接種率は10代ごとに接種率のデータが出ています。それを参照し、6月中旬までで、60歳以上85.0%、60歳以下を47.8%としました。これで年齢平均すると全体で前回の61%になります。即ち、ワクチン接種の総数は同じです。

感染抑制効果は、前回同様、ブースター接種による感染抑止効果の上昇を、年齢に関係なく、30%としました。

この条件により、今回の年齢別の解析は、接種率を年齢均一の61%としていたものを、60歳以上85%、60歳以下47.8%とした場合の比較評価になります。これ以外の評価の手法、その他のパラメータは前回と同じです。

図1の上部にワクチンの抑制因子をプロットしています。青線が前回と同じ、年齢均一で61%の接種率、抑止因子は最大で30%×61%=18.3%になります。朱線と橙線が今回の抑制因子で、60歳以上85.0%の接種率、抑止因子は30%×85.0%=25.5%(朱線)、60歳以下47.8%の接種率、抑止因子は30%×47.8%=14.3%(橙線)となります。

ブースター接種は高齢者からではなく、均一に接種した方が有効だった
(画像=図1、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)
ブースター接種は高齢者からではなく、均一に接種した方が有効だった
(画像=図2、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

前回と同様に、この期間を4つの波に分けて(図1に成分を示す)山火事理論を適用し、ブースター接種の抑制因子を入れて、データを再現するようにR0を決定し、自己無撞着な解を求めます。結果は図1、2の各黒線です。年齢を2群に分けた場合も、同じ結果を再現するようにR0を決定するのがポイントです。

図1が線形表示、図2が対数表示で、図2には、60歳以上の感染者(1/4を掛けています)、死亡者も表示しています。ここで抑制因子を省いた解を求めます。図1、2の青線が前回の年齢均一の結果、橙色の破線が今回の60歳以上以下の接種率を考慮した結果です。

年齢別接種率を考慮した結果は、ピークで76%(83%)の抑制効果、全感染者数で42%減(52%)、568万人(827万人)の減少、全死亡者数で22%減(28%)、3700人(4800人)の減少の抑制効果が得られました。(括弧内は、均一接種率の場合の結果)

60歳以上の年齢層だけで見ると、感染者数で43%減(50%)、58万人(75万人)の減少、死亡者数で22%減(27%)、3300人(4300人)の減少の抑制効果です。(括弧内は、均一接種率の場合の結果)

即ち、均一接種率(61%)の結果のほうが、実際の年齢別の接種率(60歳以上85.0%、60歳以下47.8%)の結果より、全てにおいて抑制効果が大きく、具体的には、全陽性者で259万人減、全死亡者で1100人減、60歳以上の高齢者層だけを見ても、陽性者で17万人減、死亡者で1000人減の抑制効果の増加が見られたということです。

「コロナによる被害を少なくするために、リスクの高い高齢者からブースター接種をする」という方針と大きく矛盾しますが、理由はシンプルです。

図3は、日本のこの2年半の陽性者数(赤)、60歳以上の陽性者数(緑)、死亡者(青)の変化と、これを変異株毎、また連続的な変異のところも幾つかの波に分解して山火事理論を適用して得た結果です。

ブースター接種は高齢者からではなく、均一に接種した方が有効だった
(画像=図3、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

各波について、図3に示した矢印の基点で感染確率(基本再生産数R0で特徴付けられる)を決定し、基点の後、感染確率は時間変化せず、ピークの位置と高さは自己無撞着な解によって自動的に決定されます。この時用いた各波のR0の値を表1にまとめます。

ブースター接種は高齢者からではなく、均一に接種した方が有効だった
(画像=表1、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

本連載のシミュレーションモデルでは、年齢について60歳以上以下の2群に分けて計算していますので、R0についても、60歳以上の陽性者数を再現するように、60歳以上のR0(o)と60歳以下のR0(y)を区別して定義します。表1にはR0の年齢平均値とR0(o)/ R0(y)の比を示しています。

この比が示しているのは、昨年の7月頃まで、即ちデルタ株以前は、60歳以上の高齢者の感染確率は60歳以下の若年層の感染確率の50%程度だったのが、デルタ株以後は20%程度に抑えられているということです。原因としては、高齢者のワクチン接種率の高さ、感染予防の徹底等があげられます。

ブースター接種以前に、高齢者の感染確率が若年層に比べて20%程度に大きく抑えられていることが、今回の結果の原因です。即ち、ブースター接種の感染抑制効果の上昇が30%で一律とすると、ひとりの高齢者に接種するより、ひとりの若年層に接種した方が、1回の接種の感染抑制効果が大きくなります。従って、一律に接種した方が、全体の陽性者数、死亡者数、また、高齢者の陽性者数、死亡者数に対しても、今回の結果のように高齢者優先の接種より効果が大きいという結果になります。

表1に致死率(平均値と年齢層の比D(o)/D(y))の値も示していますが、高齢者の致死率は若年層の86倍です。高齢者個人の問題として、この致死率の違いを考慮すれば、高齢者、また、既往症がある人が優先的にブースター接種を受けることに重要な動機がありますが、施策として社会全体の感染抑制の最適化を目指すなら、今回の結果もまた考慮の対象とされるべき要点ではないでしょうか。

【付記】
山火事理論の定式化、半値幅の普遍性、これまでの結果を論文としてまとめ、ここにアップしました。まだ査読前ですのでご留意ください。補足ファイルにモデルの詳細、式、日本を含む15カ国の結果と各波のR0等(日本場合年齢別のパラメータを含む)の全てのデータがあります。

文・仁井田 浩二/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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